オーストリアでは戦後、社民党と国民党の2大連立政権時代が続いてきたが、2000年以降、国民党・自由党の連立、国民党と緑の党の連立が発足したが、同国で3党の連立政権はない。国民党・社民党・ネオスの3党の連立政権が発足すれば初めてだ。

連立政権に参加する政党が増えればそれだけ政権を維持することは困難になる。例を挙げる。隣国ドイツでは2021年12月に発足した同国初の3党連立政権(社民党、「緑の党」、自由民主党)は予算、財政問題で対立して破綻、崩壊し、来年2月23日に早期総選挙が行われることになったばかりだ。政治信条が異なる3党の連立政権は発足直後から政権内で対立を繰り返してきた。多分、同じことがオーストリアの次期3党連立政権についてもいえるだろう。国の財政赤字を縮小するよりも、社会関連政策を重視し、富裕国民への課税を考える社民党に対し、国家の財政の健全化を重視する一方、企業への投資、減税などを要求する国民党とでは出発点が異なる、といった具合だ。

それではなぜ、政策も政治信条も異なる3党が連立政権の発足を目指してこれまで交渉を重ねてきたのかだ。その答えは案外、シンプルだ。第1党の自由党を排除する以上、3党連立政権以外の他の選択肢がないからだ。ネハンマー国民党党首は自身が首相のポストをキープするためには社民党とネオス以外に連立パートナーがないのだ。社民党は野党生活が長くなったこともあって昔のように与党入りし、政権の旨味を享受したいという思いが高まってきている。小党「ネオス」にとっては政党設立初めて到来した政権入りのチャンスを失いたくないという考えがあるだろう。権力への誘惑と言い換えることができるかもしれない。同国のメディアは、新政権発足は今回のクリスマスには間に合わないが、年が明ければ、3党連立政権が誕生するだろう、と予測している。

看過できない点は、シュタイアーマルク州議会選でトップとなった自由党が国民党と連立政権を発足する運びとなったことだ。州レベルでは自由党は既に政権に入っているが、いずれもジュニア政党としてだ。しかし、シュタイアーマルク州議会の場合、自由党は第1党として州知事を初めて獲得し、政権パートナーに第2党の国民党と組んだのだ。連邦レベルでは自由党外しで政権交渉が進められている最中、自由党が州レベルとはいえ、州首相の地位を得たのだ。オーストリア政界に衝撃を投じている。