昨今の事情を逆手にとった裏取引
騙された被害者側としてみれば、男性が名古屋トヨペットの社員だということで信用してしまった可能性もある。大手ディーラーの場合は社内のコンプライアンス対策も整備され、取引プロセスのチェック体制も確立されていると思われるが、なぜ、このような不正が見逃されてしまったと考えられるのか。
「メーカーから供給される新車は商品管理や顧客管理が徹底されているため、不正はやりにくいと思いますが、会社を離れたところで同業他社と架空の商取引をしていたとしても、そこまで会社が把握したり管理したりということは難しいのではないでしょうか。つまり、営業担当者は会社を離れて外に出ると、全ての時間を会社の営業のために使っているとは限らない、ということです。携帯電話やLINEなどのやりとりまで管理はできないでしょうし、個人情報保護の観点から営業担当者のプライベートに会社としてあまり踏み込めない昨今の事情を逆手にとった裏取引、といったところが、今回の事件の実態なのではないでしょうか。
この詐欺行為をなぜ名古屋トヨペットは防げなかったのか? と多くの方が考えると思いますが、ある程度の権限がある営業の幹部クラスになると、同業他社の知り合いも多く、ネットワークはかなり広がっているはずです。その全ての交友関係を会社が把握することは難しく、表立った取引ではなく、怪しい利益を生む『裏取引』については、正式な契約書を交わすでもなく、お互いの信頼関係で金銭の受け渡しをしたり、帳簿に載らないお金のやりとりや車のやりとりが発生します。本来は実際に車の受け渡しに伴ったお金のやりとりがあり、そこにマージンが発生したり、お互いにメリットがあるから『裏取引』も成立するわけですが、容疑者は過去の信頼関係を利用して周りの同業者を騙し、詐欺行為を繰り返していたのではないかと思われます」(桑野氏)