イランでは2022年9月、22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさんがイスラムの教えに基づいて正しくヒジャブを着用していなかったという理由で風紀警察に拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、同月16日、病院で死去したことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求した抗議デモが広がっていった。それに対し、治安部隊が動員され、強権でデモ参加者を鎮圧した。その結果、国内外から激しい批判の声が高まっていったことはまだ記憶に新しい。最近では、イランのミュージシャンであるパラストゥ・アフマディさんがヒジャブを着用せず、服装規定に反するドレスを着て歌い、そのコンサートをYouTubeに公開した。その結果、彼女とバンドメンバー2人は逮捕されたばかりだ。ヒジャブの着用問題はイランの聖職者支配体制を揺るがす大きな問題となっている(「イランはクレブトクラシ―(盗賊政治)」2022年10月23日参考)。
イランを取り巻く政治・経済情勢は厳しい。イランは、宿敵イスラエルを打倒するためにこれまでパレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激派テロ組織「ハマス」、レバノンの民間武装組織ヒズボラ、イエメンの反体制派武装組織フーシ派に軍事支援してきた。同時に、アサド政権下のシリアに対してもロシアと共に軍事支援してきた。
2024年12月の現状はどうだろうか。ハマスはイスラエル軍の報復攻撃を受けてほぼ壊滅状況だ。ヒズボラはイスラエル軍によって最高指導者ナスララ師が殺害され、統制が難しくなってきた。そしてアサド政権の崩壊だ。イラン革命防衛隊(IRGC)が拠点を構え軍事活動を展開してきたが、反体制派のイスラム過激組織「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)が武装蜂起すると、アサド政権はあっさりと崩壊し、アサド大統領は家族と共にモスクワに逃避した。
すなわち、ハメネイ師とIRGCが疲弊する国民経済を無視して、外国のイスラム過激派テロ組織を支援してきたが、その結果は無残なものに終わろうとしているのだ。イランの同盟国ロシアはウクライナ戦争で忙しく、イランを経済的に支援する余裕はないだろう。