そしてデータ分析の結果、ADHD症状の重症度は、認知機能障害や動機づけ機能障害よりも「感情調節障害」との関連性の方が強いことが明らかになったのです。

感情調節障害のスコアが高い子供ほど、ADHD症状の重症度も高い傾向が見られました。

特にADHD症状が非常に重篤な小児350名のうち21%は、認知機能および動機付け機能の欠陥を示しておらず、感情調節障害の高いスコアを示していたのです。

また追跡期間中にADHD症状が緩和する子供たちもいましたが、感情調節障害のスコアが高かった子供たちほど、ADHD症状が慢性化して長引く傾向がありました。

実際にADHD症状の重篤な子供では、感情調節機能と密接に関わる脳領域「下前頭回(かぜんとうかい)」の表面積が他の子供たちに比べて縮小していることが確認されています。

これらの結果を受けてチームは、この脳領域の表面積が小さくなるほど、感情調節障害が強くなり、それが感情の浮き沈みの激しさを引き起こすことで、ADHDに特有の不注意・多動性・衝動性につながっている可能性が高いと説明しました。

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心の荒ぶりがADHD症状につながっていた?/ Credit: canva

今回の研究成果は、心の荒ぶりが制御できない感情調節障害こそが中核的要素となって、ADHD症状の顕在化に寄与している可能性を示唆するものです。

一方で、今回の研究は小児のデータに焦点を合わせたものであり、脳構造や感情調節機能が小児とは異なる大人に同じ結果を適用できるかはまだわかりません。

しかしながら、大人のADHD症状の一つとして感情調節障害が見られることは報告されています。

そのため、大人においても感情調節障害がADHDであることのサインとなっている可能性は十分にあります。

そこで今後は、感情調節機能とADHDとの関連性をさらに深掘りすることが診断の精度を上げていくと期待されます。

その結果次第では、感情調節に焦点を当てた治療がADHD症状を効果的に改善する新たなアプローチとなるかもしれません。