ロシア外務省は8日、アサド大統領が国外に退避したことを確認する一方、「シリアの内戦はまだ終わっていない。シリア国内には様々な武装勢力が存在するからだ」と述べている。ロシアにとってシリア駐留のロシア兵士の安全確保と軍事基地の維持が急務だ。

フメイミム空軍基地はシリア内戦では重要な役割を果たしてきた。同空軍基地は、シリア政府軍が使用していたバッサル・アル=アサド国際空港をロシアが改修し、2015年に正式に運用を開始した。ロシア軍のシリアにおける空軍活動の中心拠点だ。シリア内戦において、ロシアの航空支援はアサド政権の軍事的優位性を支える重要な要素となってきた。戦闘機(Su-35、Su-34など)、攻撃機、無人機、輸送機が配備され、作戦支援や空爆を行ってきた。ただし、ウクライナ戦争が激化して以降、フメイミム空軍基地から一部の部隊が撤退したと報告されている。

一方、タルトゥース海軍基地は、ロシアが1971年にシリア政府と協定を結び、ソ連時代から使用している地中海沿岸の補給基地だ。2017年には、ロシアとシリアの間で条約が結ばれ、基地の長期使用権が認められた。ロシアにとって唯一の地中海海域における海軍基地であり、戦略的な価値が極めて高い。潜水艦やフリゲート艦などが定期的に寄港し、補給・修理を行ってきた。ロシア海軍が中東や北アフリカで影響力を行使するための足場となってきた。

すなわち、シリアにあるロシアのフメイミム空軍基地とタルトゥース海軍基地は単にシリアだけではなく、中東全土への重要な軍事的足場だ。その拠点がアサド政権の崩壊でその存続の危機に瀕しているのだ。外電によると、HTSはロシア側に両基地の安全を保障したという。それが事実ならば、ロシア側もひと安心だが、シリア国内にはHTSのほかにトルコが支援するSNA(シリア国民軍)やクルド人勢力が主導する多民族混成部隊で、アメリカの支援を受けて活動しているSDF(シリア民主軍)などが存在する。ロシア側としてはHTSとの口約束だけではで十分ではないだろう。しかし、ウクライナ戦争で多くの兵力と軍事品を投入している時だけに、プーチン大統領にはポスト・アサドへの周到な準備が出来る余裕がないはずだ。それゆえに、欧米メディアでは「ロシア軍のシリア撤退も完全には排除できない」と受け取っているわけだ。