PN測定も可能

PN(Particle Number)という用語は本稿で初めて出した。

PNについては自動車業界、特に排ガスに詳しい方はご存じだろうと思う。

一般的傾向としては、燃焼器具が高度化し燃焼効率が向上する(といっても限界が有るが)につれ汚染物質の総排出質量は減少するものの、排出される微粒子の径粒がより微細になり、総粒子数が大幅に増加するという指摘がされている。

2.5よりも微細な1.0クラス以下のさらに小さいPMは、従来の測定機器では捕捉しにくい。そしてさらに悪いことに極小化したPMは健康被害をより深刻にする懸念も指摘されている。

PN測定は元々は自動車排ガスを対象としているが、主に家庭の木材燃焼行為により発生する住環境における煤煙の脅威に対し、PNの連続測定すなわち粒径別の粒子数測定を行う意義は有ると筆者は考える。

微粒子の大きさの模式図

蛇足だが、WHOでは以下のような指摘をして警告を行っている。

つまり、低温燃焼では多数の著名な有害ガスが放出され、逆に高温燃焼ではさらに極小化した微粒子数が増加し放出されるということになる。

低温でも高温でも結局は有害な物質は放出されるわけで、WHOの警告を重視するなら住宅が集まっている地域にあっては各家庭個別での薪ストーブ等の「古典バイオマスを燃料とする小型燃焼器具」は決して推奨されるべきものではない、というのが医学的・科学的に正しい。

気候や健康上の理由を以てガスコンロを禁止(米国)するなら、その理論に従うのであれば当然に薪ストーブも同時に禁止とせねばならないはずである。

さらに、日本国政府の、住環境公害を無視する「民家へのバイオマス推進」は国際的には逆行政策である。

SDGsでも本来削減廃止が示されているはず、欧米諸国でその害が認識され規制強化は何度も指摘した通りである。

SDGs7.1 2030 年までに、安価で信頼性が高く、かつ現代的なエネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する。

→古典的バイオマスである木材燃焼、薪の使用を削減すべきとの趣旨がこの項目の本旨である。家屋等の個別での木材燃焼は削減対象であって、薪ストーブや暖炉を推進する理由に、この項目を援用するのは完全に間違っており、木材燃焼での大気汚染を正当化する根拠にはならない。

測定の実際

ScapelerエアモニタでPN測定が可能になったことにより、燃焼のタイプによって粒径別の粒子数の大まかな比率が異なることを示すデータが採れたので、典型例を紹介しておこう。

燃焼微粒子に関して、概ねの一般的傾向としては以下であると言われている。

薪ストーブ等の密閉式焼却炉で燃焼温度が比較的高温になる場合は、より微細粒径の割合が多くなり逆に大粒径が少なくなる。 廃棄物等のOpenburningでは低温燃焼であり、大粒径の割合が多くなる上に総排出質量も多い。

高温燃焼の排気(左上)と低温燃焼の排気(右下)

これを念頭に以下のグラフを見ていただきたい。

薪ストーブによる煤煙の測定例

焚き付けか薪の追加などの操作が行われていると思われる時刻にスパイク値が見られる。

1枚目のグラフ(PM2.5)の量に比して2枚目のグラフ(PM10)の量が少なめであることに留意されたい。

3枚目のグラフのPN測定値で示すように7時すぎの焚き付けと思われる猛煙では、全ての粒径で例外的にスパイクが見られるが、その他の時刻全てでPM5やPM10といった大粒径での変化が殆ど見られず、PM2.5以下の小粒径の値のみが大きく変動している。

これにより薪ストーブのような密閉焼却炉による排煙に含まれる粒径分布の特徴を示すとみることができる。

なお、本グラフで16時以降に全ての値が減じているのは、4枚目のグラフに示す気温変化つまり天候悪化により風向が変わり、測定上は残念ながら(本当は幸運ではあるが)煤煙が測定機器に向かわなくなった為である。

他の発生源による影響については、同時刻にOpenburningは行われていないことを確認してある。またこの地域では夜間はOpenburningは行われず、夜間の煤煙発生源は家屋の薪ストーブのみである。煤煙を常時排出する大規模発生源も存在しない。

風向が転じてもPM5やPM10といった大粒径のPN値だけはほぼ変化しないことも意外な発見ではある。

Openburningによる煤煙の測定例

以下はごく短時間のOpenburningによる煤煙である。PM2.5と共にPM10の双方の質量が非常に多いことが一目瞭然である。

PNも各粒径で満遍なく明確に増加を示しており、不均質な燃焼物を低温で焼却するOpenburningでは「粗い粒子」も大量に発生することを示唆しているといえる。

なお、当日は清浄な空気質であり、同時刻帯に他の発煙源や薪ストーブは使用されていないことを確認してある。

清浄な日の測定例

参考として、理想的と言える程度に非常に清浄であった日の測定値を以下に示す。

編集部より:この記事は青山翠氏のブログ「湘南に、きれいな青空を返して!」2023年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「湘南に、きれいな青空を返して!」をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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