レッテル貼りに過ぎない「アルカイダ」も、諸外国からの承認の上でハードルになる。HTSがシリアを統治することになれば、タリバン政権と同様になると推測される。これがアフガニスタン化だ。
だが、これはあくまでHTSが、シリアを統一できた場合の話である。そもそもシリア反体制派は、内戦当初の2012年の時点で不協和音に満ちていた。カタール首都ドーハで開かれた会議は紛糾し、”100年かかっても合意は不可能”と揶揄された。果たしてHTSに反体制諸派をまとめる能力はあるのか。
HTSは、これまで反体制派最後の砦、北西部イドリブ統治の主体となってきた。住民の抗議運動や他の武装勢力との衝突が度々伝えられており、地域に展開するトルコ軍の介入を招くこともあった。イドリブすらまとめられなかったのに、急に手中に転がりこんできた政権側地域を掌握できるのかはなはだ疑問だ。
また今回、アサド政権崩壊の大きな一助となったのは、南部スワイダなどからの反体制派の進撃である。スワイダは、アサド政権が反体制派にほぼ勝利した後も反政府運動が根強く残った地域である。ドルーズなど少数派が多い土地柄ゆえ、イスラム主義一色じゃないのも特徴だ。HTSがイスラム法統治を敷こうとすれば、抵抗するだろう。
アサド政権とも反体制派とも距離を置いてきた第三勢力、クルド人の東部自治当局は、今やシリアの領土の40%を支配している。これを武力で打倒するか、交渉で取り込む必要がある。ただ、その背後にはアメリカが控えており、 軍事的に征服するのは不可能で、”アルカイダ”の政府に参加することもあり得ない。
一番あり得そうなシリアのリビア化こうした諸条件の中でよりあり得そうなのが、リビア化である。
リビアではカダフィ政権崩壊後、一旦は軍も崩壊したが、ハリーファ・ハフタル将軍の下で再結集し、イスラム主義統治に反感を持つ層の受け皿となった。東部を根拠地にして西部に攻勢をかけ、一時は暫定政府を崩壊寸前にまで追い込んだ。