HTSはもともとアル・カイダ系のイスラム原理主義の勢力である。現在は、アル・カイダと関係を断っているという。だが、そもそも現在「アル・カイダ」自体が中心を持たない緩やかなテロ組織ネットワークでしかないものになっている。HTSの現在の組織的内実は不明瞭である。

HTS指導者・ジャウラニ氏(編集部)

HTSはトルコの支援を受けているとされる。HTS戦闘員の相当数がアラビア語以外の言語を話しているとも報道されており、(近隣各地から)トルコを通過してシリアに入ってきた人々であると推察されている。ただ今回のHTSの進撃について、トルコは直接的には関与していないという立場をとっている。トルコはもともと自由シリア軍(FSA)という別のシリア北部を拠点とする勢力の後ろ盾である。FSAとHTSは、アサド政権に敵対する限りは共闘する関係にあるが、一枚岩ではない。トルコは現在、アサド政権に圧力をかけながらも、HTSがクルド系のSDFと棲み分けを行おうとしていることについて、不満を持っているとも伝えられている。

HTSの大攻勢の直接的なきっかけは、レバノンを拠点とするヒズボラがイスラエルとの戦闘で弱体化したことだろう。さらに背後にいるイランとともに、ヒズボラはアサド政権を支える側の勢力であった。イスラエルとヒズボラの間の休戦が成立した直後にHTSの大攻勢が始まったが、機会をうかがっていたと言ってよいように見える。またイスラエルはアサド政権と対立してシリア領にも空爆を繰り返している。実態として、HTSと共闘しているのはイスラエルだと言えるだろう。もちろん、さらなる背景事情としては、ロシアがウクライナとの戦争に精力を注いでいるため、シリアのための余力が不足している、という事情もある。アメリカが、ロシアとイランとアサド政権と対立し、イスラエルとSDFを支援する立場から、HTSの大攻勢を好意的に見ている様子も見てとれる。イスラエルは、シリア領におけるアサド政権に対する空爆を続けながら、注目が低下したガザにおいて、さらなる破壊攻撃を激化させている。