ゼレンスキー大統領は、アメリカの大統領選挙の時期までは「勝利計画」を頻繁に参照し、支援国が「勝利計画」にそって行動してくれれば、ウクライナは勝利する、といった物語を吹聴していた。トランプ氏の当選が確定し、バイデン政権が、ロシア領内に向けた長距離砲の使用許可を出してから、ゼレンスキー大統領は「勝利計画」に言及しなくなってしまった。

ゼレンスキー大統領は、「勝利計画」で、長距離砲の使用許可こそが勝利のカギだ、と主張していた。ロシア領内を攻撃さえできれば、ウクライナは勝利する、ウクライナが勝利できないのは支援国が武器の使用制限をかけているからだ、と主張していた。

バイデン政権側は、長距離砲の使用強化はロシアを刺激するだけで、そもそもウクライナに有利な戦局をもたらす要素ではない、という立場をとっていた。トランプ氏の当選後は、ウクライナ政府の主張を受け入れる形で、長距離砲の使用制限を解除してみせた。

結果は、長距離砲の使用制限の解除は、戦局に大きな影響を与えていない。そこでアメリカは、「武器ではなく人」が苦戦の原因だ(ウクライナが苦戦しているのは巨額支援を提供したバイデン政権の責任ではなくウクライナ政府の及び腰の動員政策のせいだ)といったことを言い始めたわけである。

これに対してウクライナ政府は「勝利計画」の見立てが崩れたわけだが、なお「支援国の支援が不十分で遅いのでウクライナは苦戦している」という主張を徹底している。苦戦の原因は、支援国にあり、ウクライナ政府に責任はない、という立場である。