野村証券の広島支店に所属していた元社員が80代の顧客の自宅で食事をもちかけ、食べ物に睡眠作用のある薬物を混入させて放火したうえで現金約1787万円を奪い放火したとして、強盗殺人未遂と現住建造物等放火の罪で起訴された事件。野村証券は3日に会見を行い、役員10人が役員報酬を自主返上することや、再発防止策を発表した。大手金融機関では三菱UFJ銀行の玉川支店に勤務していた店頭業務責任者(すでに懲戒解雇)が顧客約60人の貸金庫から計十数億円に上る資産を窃取するという事件が発生しているが、同行は会見を開いておらず、野村のような経営陣の報酬返上なども発表しておらず、同行の不祥事への対応姿勢に疑問の声が広まっている。
野村証券は3日の会見で、奥田健太郎社長や個人向け営業部門担当の杉山剛取締役専務ら役員5人の報酬を3カ月分、30%返上するなど、10人の役員が役員報酬を自主返上すると発表した。また、再発防止策として、以下に取り組むとしている。
・代表取締役副社長を委員長とする業務改革推進委員会を設置し、対応策の十分性や実効性を検証し、必要に応じて新たな施策を検討し、これらの対応策の実践に求められる社内規則や組織体制の方針を定める。
・顧客に接触する社員を対象に、業務時間内の行動予定の厳格な管理や会社が貸与する携帯電話やドライブ・レコーダー等のデータ活用により、顧客訪問・面談などの行動を厳格にチェック。
・主に顧客に接触する社員を対象に、年に一度、一定期間連続の休暇取得を義務化し、潜在的な不正の検知を目的として、同期間中の社員によるすべての顧客への一切の接触を遮断し、他の社員が担当する制度を導入。
・職業倫理・リスク管理・コンプライアンス・コンダクトを評価対象も対象評価とする人事評価について、これまでよりも参照するデータの範囲を拡大し、一人ひとりの特徴や個性を今まで以上に解像度を上げて確認して評価の質を向上させる。
・部下・同僚を含むさまざまな社員が匿名で対象社員の強みや改善点等を評価(360度フィードバック)について、非管理職に対しても速やかに導入・実施。
自宅訪問営業は今後も続く
大手証券会社社員はいう。
「野村をはじめ金融機関が今、力を入れるウェルスマネジメント(個人資産を包括的に管理・運用するサービス)の顧客には高齢の富裕層・準富裕層が多く、営業担当はさまざまな金融商品を紹介するだけでなく、税金や相続など幅広い分野の相談に乗ることで顧客の信頼をつかんで自分のセールス成績アップにつなげていきます。こうした込み入った話をするためには、どうしても顧客の自宅に訪問して対面で話をするかたちになり、営業担当者は夜であろうが休日であろうが足を運ぶことになります。今回野村が発表した再発防止策によって、現場の営業担当者は多少は営業がやりにくくなるといった面はあるでしょうが、野村はウェルスマネジメントを今後の成長の柱に据えており、そのためには顧客の自宅訪問営業は欠かせない営業手段なので、各支店でノルマがある以上は“自粛させる”ということはないでしょう。
今回の再発防止策で少し気になったのは『年に一度、一定期間連続の休暇取得の義務化』という内容です。いわゆる『職場離脱』といわれるもので、社員に一定期間連続で休暇を取得させることによって日常業務で不正を行っていないかをチェックするというもので、大手の金融機関はどこもやっていることなのですが、野村では今までやっていなかったのでしょうか。また、職業倫理などの人事評価項目をこれまで以上に重視するということですが、そもそも会社は社員が顧客の自宅に火をつけて現金を盗むような犯罪行為を行うことを想定していませんし、そのような人間にいくら倫理教育やコンプラ教育をやったところで限界があるでしょう」