たとえば細胞内部の化学反応を測定する方法では、細胞内の化学反応が一定以下まで低下することが「死」とされています。
しかし細胞膜のダメージが一定以上を死とする判定法や細胞の再増殖能力をもとに死を判定する方法など他の方法と必ずしも結果が一致するわけではありません。
そのため、細胞死の起こる仕組みやメカニズムが活発に研究されているにもかかわらず、「死」という現象がどのような数理学的性質を持つかは全く不明なままでした。
そこで今回、東京大学の研究者たちは近年急速に進歩している計算生物学の手法を用いることで、生死の境を数理学的に判定する方法を開発することにしました。
研究はまず最初に「生きている状態」と「死んでいる状態」についての最も基本的な確認から始まりました。
それは、生きているものは死ぬことができますが、死んでしまったものは生きている状態に戻らないという、基本中の基本です。
加えて研究では「生きている状態(の代表点)」に戻れる一時的な不活性化もまた「生きている状態」であり、戻れない状態こそが本当の「死んだ状態」と定義しました。
「何を当然のことを…」と思うかもしれませんが、数理理論を確立するにはそういった基礎の基礎から理論を積み上げていかなければなりません。
次に研究者たちは、理論構築の基盤として、細胞の生死と個体の生死を区別する必要がない単細胞生物を想定し、細胞内部で起こる生命活動を計算対象とすることにしました。
たとえば細胞に外部から物質Xが取り込まれ、それが物質Yに変換されることでエネルギーが発生し、最終的に物質Yが体外に排出されるときにいった反応です。
このような反応は、糖分が分解されエネルギーが取り出される過程をはじめ、生命活動の最も基本的な形となっています。
研究では、このような基本的な生命活動が行われ続けている状態を「生きている状態」としました。