「完全に個人の見解ですが、当店のミートソースが1番ガツンとくると思っています」──個人の意見だと断りつつも自信を感じさせる文言に添えられた、鮮やかな赤色のミートソーススパゲティーの写真。
東京・上野のアメ横にある老舗純喫茶「珈琲 王城」のポストが反響を呼んでいます。はたして「ガツンとくる」味とは……? 真相を確かめるべく、実際にお店へ食べに行ってみました。
■ 上野・アメ横で50年以上営業 乃木坂46「『おひとりさま天国』公認店」にも選出
話題となったのは、「珈琲 王城」の公式Xアカウントが11月14日に投稿したポスト。
「完全に個人の見解ですが、当店のミートソースが1番ガツンとくると思っています」と笑顔の顔文字つきで投稿された写真には、トマトの赤色とたっぷりのひき肉が映える大盛りのミートソーススパゲティーが写っており、同意と共感のコメントが寄せられました。
これは実際に食べてみなければ……! と訪れたのは、JR上野駅から徒歩2分ほど、多くの人で賑わうアメ横エリアの一角にある「珈琲 王城」の店舗。平日の昼間でしたが、お店の外では若い女性から年配の男性まで、さまざまなお客さんが長い行列を作っていました。
「珈琲 王城」は、上野で三代にわたって続く老舗の漢方専門の診療所「天心堂診療所」の院長、玉山珉碩(たまやま・たみひろ)さんがオーナーを務めるお店。創業は昭和50年とされていますが、これはあくまで、現存するもっとも古い営業記録によるもので、正確にいつから営業しているかは、玉山さんご本人もわからないのだそう。
創業当時からほとんど変わっていないという、年季の入った外観。同店は、アイドルグループ・乃木坂46の楽曲「おひとりさま天国」のリリースにちなんだ「『おひとりさま天国』公認店100店」に選ばれており、ドアにはその証であるステッカーが貼られています。
店に入ると、あたたかな暖色照明に、黄金色に輝くコーデュロイ生地の椅子、そして天井には大きなシャンデリア。その縁も、額縁のように華やかな装飾がなされています。全体がゆったりと輝いて、落ち着いた時間の流れる空間。これぞ老舗の純喫茶、といった雰囲気。店内には一人でくつろぐお客さんも多く、文字通りの「おひとりさま天国」を感じます。
さわやかなトマトの酸味に続いて肉の旨味 時間差でやってくる「ガツンと来る」味
テーブル席につき、皮の表紙を思わせる重厚なメニューをめくります。今日のお目当ては、もちろんミートソース。紅茶もしくはコーヒーがセットの「ランチセットメニュー」(11:00〜15:00販売、税込1400円)で、アイスコーヒーとともに注文します。
「珈琲 王城」自慢のミートソースは、一度茹でてから一晩寝かせることでコシを出したスパゲティー麺に、見た目にも粒立っているのがわかるほどひき肉がたっぷり入ったミートソースと、カリカリしすぎずちょうどよい塩梅に焼かれたベーコン、ピーマンが添えられています。
まずはミートソースを、と思いましたが、ここはやはりスパゲティーのハーモニーあってこそ。フォークでぐるぐる絡めていただきます。
口に入れると、まずやってくるのが爽快なトマトの風味。さわやかな酸味が口の中を吹き抜けたあと、時間を置かずに濃厚な甘味と力強い旨味、そして確かに肉汁を感じるひき肉のコクが追いついてきます。丁寧ながらもグイグイやってくる、3つの味の波。これはたしかに「ガツンとくる」味……!
具材のベーコンといっしょにいただくとさらに香ばしく、ひき肉とはまた違った肉の風味が合わさって、より奥行きのある味わいに。それでいてホッとするやさしい舌触りは変わることなく、いつまでも身を預けていたくなる安心感に満ちています。
アイスコーヒーを飲むと、キリッとした苦さが舌をリセットしてくれて最高。また一口、また一口とフォークに手が延びて、優雅なランチタイムを過ごすことができました。
■ 創業から変わらぬ味がポリシー 「食事は歌と同じ」とオーナーが込める思い
Xのポスト通り「ガツンと来る」味を実感した、「珈琲 王城」のミートソース。この美味しさがどのようにして作られ、守られ続けているのでしょうか。オーナーの玉山さんに質問させていただく機会を得ました。
まずは単刀直入に「ガツンと来る」味の秘訣を聞くと、「トマトをベースにした秘伝のレシピ」という以外は、使用具材を含めて企業秘密とのこと。どうやら今回食べて感じた以上に、さまざまな味が組み合わさっているようです。
ちなみに玉山さんいわく、「ミニ玉子サンドに残ったソースをつけて食べるのもオススメ」だそう。ミートソースとの相性が抜群なもちもち食感のスパゲティーですが、こちらは「調理の際にあえて強く炒める」ことで、「もちもちの部分」と「ややカリカリな部分」のコントラストを作り出し、味が単調にならない工夫をしているということです。
そんな玉山さんがポリシーとしているのは、「基本的に創業当時からのメニューを変わらず提供すること」。かつてコストの面から、ミートソースに使うひき肉を変える提案が出たこともあったそうですが、食感が大きく変わってしまうことから却下したといいます。
「食事は歌と同じで、一口食べたらあの時の光景が一瞬のうちに拡がるものだと思っています。リピーターの方のためにも自分自身のためにも、全身全霊を掛けて『変わらぬ味』にこだわっています」(玉山さん)
純喫茶業界は新規参入が難しく、後継者問題、建物の老朽化とさまざまな問題を抱えています。このため玉山さんは、「このままでは無くなってしまうかもしれないくらい危機的状況です」と業界の今後について懸念を抱いているとのこと。
最後に「もし、みなさま行きつけの喫茶店や行ってみたい喫茶店がございましたら、是非、訪れる頻度を一回でも増やして、みなさまのお力で護ってあげてください」と語っていました。
極上のひとときを与えてくれる純喫茶。時代を超えて「いつもの場所」であり続けてもらうためにも、意識して足を運んでいきたいものですね。
<取材協力>
珈琲 王城(@coffeeoujou)
(天谷窓大)
提供元・おたくま経済新聞
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