驚いた。多分、多くの人々も驚いただろう。韓国の尹錫悦大統領が3日、突然、戒厳令を発令したのだ。1980年以来という。戒厳令時代の韓国を知らない世代にとって、民主国家・韓国で戒厳令が発令されるとは想像だにできなかったはずだ。オーストリア国営放送(ORF)の夜7時半のプレミアのニュース番組「ツァイト・イン・ビルド」では最初のニュースは韓国の政変についてだった。番組にはウィーンに帰国中の同放送の北京特派員が登場して、事の進展について解説していた。

ソウルの国会前に集まり尹錫悦大統領の戒厳令発令に抗議する群衆(2024年12月4日=UPI)

ドイツの高級誌「ツァイト」電子版(現地時間3日夜)では、尹大統領が北朝鮮からの軍事的脅威が高まっているという理由から戒厳令を発令したと説明していた。その6時間後、国会で戒厳令撤回決議案が採択されたことを受け、尹大統領は戒厳令を撤回せざるを得なくなった。韓国憲法では、国会が過半数の同意で戒厳令の解除を要求した場合、大統領はこれに従わなければならないと定められているからだ。

韓国の「6時間の戒厳令」について、尹大統領が説明していたように、北からの軍事的脅威が差し迫っていたのかもしれない。ただし、尹大統領自身は具体的にどのような軍事的脅威かについては何も説明していないので、推測する以外にない。ロシアからの軍事支援を受けた金正恩総書記が「今こそ韓国に軍事侵攻すべき時だ」と判断したとしても不思議ではない。問題は、北側の軍事的脅威が事実とすれば、尹大統領は国会の戒厳令撤回決議の採択を受けたとしても戒厳令を撤回することはなかったのではないか。そのうえ、駐韓米軍の動向にも大きな動きが伝わってこないのも不思議だった。

とすれば、尹大統領の戒厳令発令とその撤回劇は対北朝鮮政策に基づくのではなく、韓国国内の問題が大きかったのではないか、という推測がより現実味を帯びてくる。支持率が低下し、与党内でも尹大統領の政治に批判的な議員が出てきている。韓国メディアによると、「尹大統領は孤立していた」というのだ。特に最近、大統領の妻(金建希夫人)に関する汚職疑惑が浮上し、支持率が更に低下していた。そこで北朝鮮の脅威を理由に挙げ、国内の政治的圧力をかわすために戒厳令を発令するという方向に流れたのかもしれない。