記憶を形成するニューロンは適切な相手と回路を形成することで、特定の記憶(記憶エングラム)を形成します。

もしニューロンが記憶と関係ないニューロンと接続してしまうと、記憶を形成する回路に障害が発生し、記憶の形を維持できなくなってしまいます。

再び細胞セットで例えるならば、細胞セットに収められていた導線がどこに繋がるべきかを見失い、全く関係ない記憶の細胞セットに接続してしまっている状況と言えます。

このような接続の無秩序化は、ネットワークの形を乱し、情報への正常なアクセスを阻害します。

つまり記憶を形成する母体となるニューロンのセットが全て健在であっても、ネットワークが滅茶苦茶になれば、記憶は取り出せなくなってしまうわけです。

今回の研究では、このような状態にあるマウスに対して、記憶エングラムを形成する細胞群の活性化が試みられ、結果的に記憶が蘇りました。

このことは、接続が乱れてしまっても、記憶を担う細胞群が高度に活性化させられる状況になれば、脳は配線を組みなおして、記憶エングラムを復元できることを示しています。

映画やドラマでは恋人に関連した強いショックによって、恋人の記憶が蘇るシーンがみられますが、このようなシーンは脳科学的にみても、あながち間違えとは言えないのかもしれません。

研究者たちは今回の研究成果が、頭部への衝撃によって記憶障害に悩まされている人々の治療薬開発にとって有益だろうと述べています。

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参考文献

Amnesia Caused by Head Injury Reversed in Early Mouse Study
https://gumc.georgetown.edu/news-release/amnesia-caused-by-head-injury-reversed-in-early-mouse-study/

元論文

Amnesia after Repeated Head Impact Is Caused by Impaired Synaptic Plasticity in the Memory Engram
https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1560-23.2024