近代以降、日本の家族制度は、明治の家制度、そして敗戦後に定められた現行民法へと変遷をたどってきた。しかし日本の家庭・家族は、法律上の家族規定の変化にもかかわらず、家族の伝統的あり方を守り続けることによって、社会秩序の基礎を形成してきた。このことを象徴するのが、家族がその共同体の名称として共通のファミリーネームを称する同姓制度である。

ここでは現行民法の家族規定とは異なる「家族の伝統的あり方」を守ると書かれている。慎重に言葉を選んでいるが、民法の個人主義を否定して家父長制に戻したいという意図がうかがえる。

しかしこれは錯覚である。北条政子や日野富子の例でもわかるように、日本の伝統は夫婦別姓なのだ。これは中国や韓国と同じ、東アジアに共通の原則である。苗字は武士の特権だったので、百姓には苗字がなかった(非公式の屋号はあった)。

1870年の太政官布告で夫婦別姓が定められたが、ほとんどの人には苗字がなかったので、地主などにつけてもらう人が多かった。1898年に民法を制定したとき夫婦同氏になり、長男が「戸主」として土地をすべて相続する家制度ができた。これは戦後の民法改正で廃止されたが、夫婦同氏だけが残ったので、それを修正したのが1996年の法制審答申である。

旧民法の氏は、東アジアの伝統である姓とも、日本の伝統である苗字とも違う。日本会議も認めるように、それは日本の伝統ではなく、明治時代に民法を制定するときドイツから輸入したファミリーネームなのだ。日本会議も最近はその矛盾に気づいて、このパンフレットをウェブから削除した。

夫婦に同じファミリーネームを法的に義務づけている国はない。近代国家では個人は固有名詞で同定されるので、家族による分類は必要ないのだ。東アジアで生まれた戸籍という制度も、中国や韓国が廃止し、残っているのは日本と台湾だけだが、本人確認の手段としては時代遅れである。

戸籍は明治の家父長制の遺物

今でも不動産登記や相続などは戸籍謄本がないとできないが、全部マイナンバーカードで代替できる。個人を日本独特の続柄で同定する戸籍は家族の出自がたどれるので、部落差別などの原因になる弊害が大きい。