バルカン半島の辺境の地で国際的に無名な選手たちが、檜舞台にどうにか這い上がろうと四苦八苦しながら激しい戦いを繰り広げる。こんなアンダーグラウンドな世界に突然、放り込まれた華奢な10代の少年モドリッチは、生き残るために無我夢中でプレーする中で、この泥臭さを会得した。
まるで、キレイに生クリームといちごをトッピングしたショートケーキの上に、バニラパウダーではなく間違えて激辛のカレー粉をまぶしてしまったかのようなものだ。「甘いのも辛いのもいける」なんともいえないモドリッチの難解な味わいは、このようにして生まれた。
バルカン半島という「るつぼ」が生んだ
もしモドリッチがスペインに生まれていれば、かつてバルセロナやヴィッセル神戸でプレーした元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(2024年引退)のようなファンタジスタになっていたかもしれない。
攻撃時はあんなに華麗なのに、守備になると急転し腹を空かせた野良犬のようにボールに食らいついていく。センスがあり技術力が高く、強く駆け引きに秀でており泥臭い。モドリッチの特徴を並べると一見、矛盾するような表現になる。
旧ユーゴスラビア系には、テクニックがあり優雅でなおかつ激しく気持ちが強い選手が多い。モドリッチも、その1人だ。つまり、カオスとエレガンスが入り乱れたバルカン半島という環境が生んだプレーヤーなのである。