旧統一教会は我々を騙そうとしているという偏見は、『反証「統一教会」』を開いて数ページ読めば、客観的な事実をこれでもかと積み重ねてくる著者の態度によって打ち砕かれるだろう。そして同書によって、これまでの旧統一教会批判は古びたものになり、同教団をめぐる議論は新たなフェーズに入った。もちろん読者には反論する自由があるものの、マスコミ報道で得た程度の知識では太刀打ちできない。したがって旧統一教会に批判的な立場を取りたい人こそ読むべき書籍だ。

その上で正直に書くが、795ページ、重量1.3キロ、広辞苑級の威容を誇る同書は、皆に勧められる書籍ではない。安倍元首相暗殺事件後に雨後の筍のように登場した、統一教会糾弾言論のような大衆性がまったくない。しかし著者の魚谷俊輔氏が『反証「統一教会」』を書き上げて同書が世に出たことで、旧統一教会を語ろうとする者なら避けては通れない巨大な事実の山が出現したと断言できる。

魚谷氏は国際宗教自由連合の上級研究員で、UPFの日本事務総長だ。そして『反証「統一教会」』に一貫している客観性とエビデンスを重視する姿勢は、彼が東京工業大学工学部を卒業していることと関係しているかもしれない。

科学的な姿勢が貫かれた同書は、読む者の同情心を揺さぶるお涙頂戴や、怒りを誘発させる誇張された表現がない点では大衆的ではないが、余計な演出のない文体で次々と未知なる事実が提示されるので、読み進めるのがまったく苦にならない。スリリングでさえある。

私は魚谷氏と面識があり、他の旧統一教会関係者や信者からも話を聞いてきたが、『反証「統一教会」』で行われた検証作業で明らかにされた教団、教義、信仰の実態には初めて知るものがいくつもあった。 しかも現役信者への聞き取り調査を行っていない櫻井氏の著述やマスメディアでの発言と違い、魚谷氏は旧統一教会への風当たりの原因から内部の実情までを冷徹なまでに見据えている。こうした姿勢が巨大な事実の山の裾野を広くしているのだ。