■一夫多妻のルーツ

 アメリカでは重婚は禁じられており一夫多妻は認められていない。キリスト教も新約聖書では一夫一妻しか認めていないが、モルモン教として知られるFLDSの前身、末日聖徒イエス・キリスト教会(LDS)主義者は1900年始めまで一夫多妻制だった。

 1800年代のこと。LDSの設立者で「神に選ばれた預言者」ジョセフ・スミスは、「多妻結婚を実施するように命じる啓示を受けたこと」をきっかけに、モルモン教徒たちは一夫多妻制を始めた。その理由は主に次の3つ。

  1. 旧約聖書では認められていた。預言を実現させるためこの制度を復旧させなければならない。

  2. モルモン教徒の両親の下に生まれた子供はモルモン教徒になる。一夫多妻制だと信者の数をたやすく増やし信仰を広めることができる。

  3. 死後、キリストが蘇り審判の日が訪れ暮らすことになる天国には3ランクあり、最高ランクのセレスティアル王国にもランクがある。女性が最も良い王国の中の王国に住むためにはモルモン教の信者と結婚していること、男性は最低でも3人の妻を娶ることが条件。だから一夫多妻制にしなければならない。モルモン教徒だけがセレスティアル王国に行くことができる――天国でもセックスができるというニュアンスで説くこともあった。

 信者たちはこの3つの教義を守るため、人が住んでいないユタ州の僻地に住むようになった。

「一夫多妻カルト」の指導者ウォーレン・ジョセフの狂気!
(画像=LDS設立者ジョセフ・スミス,『TOCANA』より 引用)

 だが1904年、再び預言者が神から「もう一夫多妻を行う必要はない」と啓示を受け、一夫多妻制を終了した。この啓示以来、LDSでは一夫多妻を固く禁じている。

 このように、モルモン教が一夫多妻性を正式な教義として取り入れていた時期は、実は50年ほどと短い。しかし、今でも「モルモン=一夫多妻制」だと思っているアメリカ人が多い。なぜなら、モルモン教から分派したFLDSが、今なお一夫多妻を続けているからだ。

 一夫多妻をしている人は、現在、アメリカ西部に3万人ほど存在するとされている。成人した女性が、自ら納得してこの制度を受け入れている場合もあり、その場合は法律違反であるものの、逮捕されない逃げ道はあり、さほど問題ではない。

 しかし、FLDSのセクトに生まれた女子は、12歳になると男性との結婚話を持ちかけられるようになる。その相手はうんと年上の男性信者。FLDSコミュニティに生まれた女子は14歳になるまでに、ウォーレンを含む年上の男性信者たちと結婚させられ性奉仕するよう強要されるのだ。「そうしないとお前は天国の中の天国へは行けない」「お前の母親や姉妹とももう会えなくなる」と脅されながら……。

 自分の意思に反して幼くして結婚を強要され、「神のお告げだから」と“夫”に性行為を強要される。そんな日々に耐えられず、セクトを逃げ出し、警察にウォーレン率いるFDLSセクトを告発する多数の女子たちの訴えを受け、2006年5月、FBIはウォーレンを「FBI10大最重要指名手配」リストに入れたのだ。

 しかし、ウォーレンを逮捕することはたやすいことではなかった。アリゾナ州とユタ州にまたがるFLDSセクトは東京ドーム約147個分ある1700エーカーもあり、信者は極端に閉鎖的なため、思うように捜査が進まなかったのだ。