近隣住民はビールに呑み込まれないよう屋内のテーブルや家具によじ登りましたが、老朽化した家はビール洪水に耐えられずにそのまま倒壊してしまいました。
この大事故で2件の家屋が全壊し、醸造所の隣にあったパブの壁が倒壊したことで、店のメイドとして働いていた14歳のエレノア・クーパーという少女が圧死する悲劇が起こっています。
これに続いて、近隣の屋内でお茶をしていた最中のメアリー・バンフィールドという女性と4歳の娘であるハンナが波にさらわれて溺死。
さらに葬儀のために地下室に集まっていた5名の住民も亡くなりました。
このロンドンビール洪水は8名の尊い命が失われるという最悪の結末を迎えたのです。
セント・ジャイルズの貧困街は今やビールで溢れかえっていました。
救助隊は腰の高さまでビールに浸かった状態で、屋内に閉じ込められたり、ケガをした人々の救助を進めざるを得ませんでした。
この大事故を受けて、当時ロンドンで発刊されていたモーニング・ポスト紙は「セント・ジャイルズの荒涼とした光景は、火事や地震が引き起こすと思われるものに匹敵する、非常に恐ろしい様相を呈している」と報じています。
またビール洪水による直接の死亡者は8名でしたが、後日になって9名の死者が新たに出ました。
これらの人の死因を調べたところ、急性アルコール中毒と判明したことから、町に溢れかえったビールをがぶ飲みしすぎたものと考えられています。
実際に事故直後は何百人もの住民がビールをすくってグビグビ飲み干す光景が広がりました。
ビールの匂いは延々と消えず、事故から数カ月経った後でもまだビールの匂いが染み付いていたそうです。
その後、ビール洪水に対して地元当局の捜査が入ったものの、クリックらの過失は認められず、結局は「不可抗力(Act of God=神のいたずら)」と認定されたため、刑事罰は免れることとなりました。