樽は木の板を何枚も組み合わせて作っており、その木材同士を固定しておくための鉄のリングが箍(たが)です。
大樽も巨大な分、箍(たが)も非常に大きく、1個でなんと317キロの重量がありました。
しかし醸造所で17年間働いてきたクリックにとって、それはあまり珍しいことではありませんでした。
年に2〜3回は樽から箍(たが)が外れていることがあったので、そこまで気にかけなかったのです。
醸造所の責任者にそのことを報告しても「後日修理を頼めば問題なかろう」と指示されたので、クリックは箍(たが)を外したまま放置し、修理依頼の手紙を書き始めます。
大事故が起きたのはその直後のことでした…
ビール津波が町を呑み込み、8名が死亡
午後5時30分頃、クリックが修理依頼の手紙を書いていた背後で突然、巨大な爆発音が鳴り響きました。
爆発源は言うまでもなく、大量のビールを積んでいた大樽でした。
ビールは発酵する際にガスを排出するのですが、箍(たが)が外れていたことで、大樽内の圧力の上昇を支えきれなくなり、ついには大爆発を引き起こすに至ったのです。
そしてこの大爆発に誘発され、醸造所内にあった他のビール樽が次々に破壊されていきました。
樽から勢いよく解き放たれた大量のビールは濁流となってセント・ジャイルスの貧民街を呑み込み始めます。
正確にどれくらいのビールが流れ出たかは定かでありませんが、醸造所内にあった大樽の数から最大で32万ガロン(120万リットル)以上が溢れ出たと推定されています。
貧民街の通りには排水路がなく、路地も非常に狭かったため、大量のビールが周辺の家々になだれ込みました。
一説では高さ4.6メートルのビール波となって人々を襲ったと言われています。