一方、アーヘン司教区の性的暴力独立調査委員会(UAK)議長で社会学者のトーマス・クロン教授は、司教区の委員会を批判、「被害者たちは、長い間虐待について語ることができなかったため、十分な時間があったとは言えない」と指摘した。また、ボンの教会法学者ノルベルト・リューデケ氏も司教区を批判し、「隠蔽によって長期間にわたって真相解明を遅らせた組織が、今度は『終止符』を打とうとする戦術で責任から逃れようとしている」と述べている。

聖職者の未成年者への性的虐待事件では、カトリック教会側は久しく沈黙し、事件の当事者の聖職者を人事という形で移動するなど隠蔽工作をしてきた。欧州最大のカトリック教国、フランスで1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたことが明らかになった。教会関連内の施設で、学校教師、寄宿舎関係者や一般信者による性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るというのだ。その際、教会側の「告解の守秘義務」が事件の解明にとって大きな障害となってきたことが明らかになり、「告解の守秘義務」の見直しを要求する声が聞かれ出した(「聖職者の性犯罪と『告白の守秘義務』」2021年10月18日参考)。

ちなみに、ローマ・カトリック教会の「告解の守秘義務(Seal of Confession)」は、信者が神父に告白した内容を秘密にする義務であり、13世紀初頭、第4ラテラン公会議(1215年)で正式に施行された。1983年に改訂された現行の教会法典(カノン法)でも、告解における守秘義務が明記されており、神父がこれを破ることは聖職剥奪の対象となる。

ところで、アーヘン司教区の場合、「聖職者の守秘義務」問題だけではなく、「時効」(Statute of Limitations)という新たな法的な障害が表面化してきたわけだ。「時効」という制度は古代ローマ法に端を発している。ローマ法では、「所有権時効」や「刑事時効」といった概念が存在。一定期間、財産に対する権利を主張しない場合、その権利が失われる。刑事事件においても、時間の経過により訴追や処罰が困難になるという理由から、一定の期間を設ける考え方が生まれたという。この時効制度は現代まで継承されてきている。