前代未聞の『自爆スイッチ』で上場廃止

 こうした粉飾決算の工作を担ったのが、会員制医療施設事業のスタートと同時に社長に就任した森田浩章氏である。調査報告書や供述調書によると、森田氏は、関係者から調達した資金をNutsに入金すると同時に引き出し、一部は関係者に返済、一部は再度、Nutsに振込み、売上計上していた。

 しかし、架空売上計上の直後、前述の巨額の現金過不足が発覚し、証券取引等監視委員会の強制調査を受ける。そして同年9月、社長から降ろされて取締役となっていた森田氏が、Nutsに対して破産を申し立てたのだ。

 この破産申立については、Nutsは表向き、会計監査人であった監査法人元和が退任し、新たに監査法人アリアが就任したものの、監査報酬を支払えないため有価証券報告書が提出できないといった事情を公表している。だが、真の理由は、逮捕後に東京地検特捜部が行った取調べで語られていた。

「私は、確か、外部調査委員会の委員からドラフト【編註・調査報告書のドラフト】の誤送信を受けたか何かだったと思いますが、調査結果の概要を知る機会を得たところ、その内容は、平成31年2月8日の業績予想の公表その他の一連の行為について、私が不正な目的をもってこれらを行ったと認定され、正に私が危惧していたとおり、私1人が悪者であるとの調査結果になっていました」
「私は、このようなものが公になれば、Nutsにおける私の地位を失うにとどまらず、今後、会社経営者として再起する機会が永久に失われてしまうと思い、Nutsの破産手続を先行させることで、外部調査委員会の調査結果が外部に公表されることを阻止しようと考えました。それで、私は、9月16日、臨時取締役会において破産申立てを提案しましたが、その議決を採るに至らないまま取締役会が中断することとなり、私が取締役としての立場で、即日、東京地方裁判所に申立てを行って破産手続開始が決定されたのでした」(森田氏の供述調書より抜粋)

 つまりは、調査報告書の公表を阻止するために、自爆スイッチよろしく破産申立を行ったことを自供していたのである。