『ドクターX』のモデルを広告塔に立てての不正
2020年9月、上場企業でありながら、現役の取締役による「破産申立」で急遽、東証ジャスダックを上場廃止となったNutsという銘柄がある。そして上場廃止後の2021年6月、社長の森田浩章氏、筆頭株主の長谷川隆志氏、金融ブローカー2人の合計4人が東京地検特捜部に一斉逮捕される事件に発展した。
Nutsをめぐっては20年2月、帳簿上はあるはずの8億円の現金が、実は50万円しかないことが発覚し、不正調査のための第三者委員会を設置。翌月には証券取引等監視委員会の強制調査を受け、市場関係者を驚かせた。その結果、巨額現金過不足の背景に、架空売上の計上が行われていたことが判明した。前述の4人は、粉飾決算と不正な株取引による金融商品取引法違反が逮捕容疑となった。
その後の公判や民事訴訟で、Nuts事件をめぐる驚愕の舞台裏が明らかになった。元社長が、不正調査報告書を隠蔽するために破産申立を行い、Nutsを上場廃止に追い込んだと自供していたのである。
Nutsは長きにわたり「ハコ企業」として知られた銘柄だった。もともと、ゲームソフト販売店「トップボーイ」のフランチャイズ店経営を主力事業として03年に上場。05年にゲームソフト販売店事業から撤退し、パチンコ・パチスロ関連事業に鞍替え。だが、売上高は2億円程度までに低迷し、赤字体質に陥っていた。
そうした中、Nutsは2016年に、『ドクターX』のモデルとしてメディアにも登場してきたコロンビア大学の外科医・加藤友朗氏を担いで、入会金約800万円という高級会員制医療施設の経営に乗り出す。結果、19年5月から11月にかけて78人の会員を獲得し、約5億6000万円の会費を20年3月期の売上に計上。同期第3四半期決算の売上高は、前年同期9000万円を大きく上回る6億8400万円となった。
ところが、実際に会員として獲得したのはほんの数名で、売上として計上できるものは2000万円しかなく、残り5億4000万円は外部から借り入れるなどして調達した資金を、知人の名前を冒用して入金し、不正に売上計上したものだった。