アルシャバブの勢力維持にはインド洋へのアクセスが関わっているが、フーシー派とつながっているという噂もあり、アメリカとしては治安情勢の観点から考えれば、AUSSOMの機能不全は利益にならないはずである。

だが地域情勢は、一枚岩ではない。アメリカと親密な関係にあるエジプトが、従来からのグレート・エチオピア・ルネサンス・ダム(GERD)問題をめぐるエチオピアと長年の対立関係から、ソマリア連邦政府に近づこうとしている。エチオピアがソマリランドとの間で2024年1月に結んだ協定が、将来のソマリランドの独立承認を含意する内容を持っているとして、ソマリア連邦政府がエチオピアを激しく糾弾したからだ。協定内容の修正がなされるのでなければ、エチオピア軍はソマリアから出ていかなければならない、という立場を、ソマリア連邦政府はとっている。

そこでAUSSOMからエチオピアを追い出された場合には、エジプト軍を派遣する準備がある、とエジプト政府が発表したことが、内外に大きな波紋を投げかけた。さらには、エジプトとソマリア連邦政府が、アフリカの北朝鮮と呼ばれるエリトリアに集まり、三カ国の協調体制を誇示する、といった「事件」も起こった。ティグレイ紛争の終結の仕方をめぐり、エチオピアのアビイ政権から、エリトリアのイサイアス大統領が離反した情勢が、ソマリア問題に飛び火したのである。

アメリカとエチオピアのアビイ政権の関係は、ティグレイ紛争中に悪化したままだ。エチオピアの地域における影響力の低下は、アメリカは気にはしないだろう。

だが実際には、アメリカが巨大な軍事基地を置くジブチは、エチオピアとソマリア連邦政府の関係悪化を憂慮している。バイデン大統領にアフリカにおけるアメリカの同盟国と言わせたケニアにとっても、エチオピアが不在のソマリア情勢は、不安視せざるをえないだろう。

ソマリア連邦政府関係者ですら、長年にわたってソマリアで軍事活動を行ってきた隣国の大国エチオピアの代替を、エジプトが務められるというイメージを持っているわけではない。