例えば、従業員の多能工化による生産性向上を期待し、業務のマニュアル化を進めるのであれば、従業員の多能工化が実現されている状態、もしくは生産性向上が実現されている状態を目標として定めるべきです。

多能工化の状態を明確にするための従業員スキルマップの作成や、生産性を測る指標の明確化とセットでマニュアル化を進めなければ、マニュアル作成の効果を判定できません。

マニュアル作成後の改善が進まなくなり、マニュアル作成が一過性の取り組みとなります。

ナレッジマネジメントを実施する上でどのような成果を期待するのか、この目標設定なしには暗黙知の形式知化が成果のための手段ではなく目的そのものになってしまいます。

目標設定ができている場合であっても、従業員の評価とこの取り組みが連動していない状況で、自身の評価項目に全く関係のないナレッジマネジメントに関する業務を上司から与えられたとしても、従業員の取り組み姿勢が消極的になる恐れがあるため、注意してください。

育成のためのジョブ・ローテーションの仕組みがない

人の流動性が乏しい職場は、暗黙知を形式化するニーズに乏しく、属人化が進み、組織を拡大成長させる上での弊害となります。

属人的なノウハウが現時点での環境に適応できているかの検証を行う機会も少ないため、環境変化に対し硬直的となり、結果として現状維持の思考が事業を衰退に導く可能性も高まるのです。

理想は、事業成長に伴い新たな人材を採用し、育成を踏まえた人材のジョブ・ローテーションを計画・実行しながら、人材の新陳代謝が図られる組織です。

その過程で職場に従業員の流動性が生まれ、必要に応じたナレッジの共有、ナレッジマネジメントが行われるのが自然の流れでしょう。

事業成長を前提とした組織構築とこれに伴う育成機能を踏まえたジョブ・ローテーションの仕組みが、情報の共有化というナレッジマネジメントの必要性を醸成します。