洋の東西を問わず、子は親の姿を見て育つ。かつては”ならず者”の巣窟であったスタジアムは、彼らのストレスのはけ口であり、差別のみならず暴力にまみれていた。そうした時代を知る親世代が過去を子に伝え、“伝承”されてしまっていることも原因として挙げられるだろう。

 また、英国においてサッカーは一番の人気スポーツであると同時に「労働者階級のスポーツ」から脱せていない現状がある。ゴール裏席でも日本円で1万円を超えるチケット代金であるにも関わらずだ。上流階級はもっぱらクリケットやラグビーに流れ、サッカーを下に見る風潮がある。Fワードを連呼し、タトゥーが入ったいかつい男たちが集うサッカーファンを軽蔑し、サッカーそのものを“差別”しているのだ。

 差別は連鎖を生み、周囲から蔑まれたサッカーファンは“自分より下”の対象として、アジア人や黒人に対し差別することで、憂さを晴らしているのではないか。英国でプロサッカーが誕生してから100年以上。社会背景が生んだこうした差別の連鎖を失くしていくには、同じ程度の長い時間が必要だろう。

 黒人選手を標的にサルの泣き真似をする「モンキーチャント」やバナナを投げ付ける差別行為が常態化しているスペインやイタリアでも、差別を助長する右傾化した社会背景が存在し、良識あるファンをスタジアムから遠ざけている。リーグ側がいくら対策しようとも、差別反対のスローガンや抗議の意思を示す片膝をつくポーズでは効果など期待できない。

 欧州5大リーグでこうした問題が表面化しないのが、最もチケット代金の相場が安いドイツのブンデスリーガというのも皮肉な話だ。日本人選手がまず、ドイツに渡りたくなる一因ともいえるだろう。

 カズことFW三浦知良(アトレチコ鈴鹿)がイタリアの地を踏んでから30年が経ち、多くの日本人選手が欧州に渡った。その間、有形無形の差別と闘ってきた歴史がある。しかし時代は変わり、黙って我慢することなく声を上げることによって、状況を変えることも可能となってきている。