伊藤興業は10月10日時点でセブンの8.2%の株主、持ち株数は2億1200万株です。同社の株価が概ね2500円なのでこれを掛け合わせると5300億円になります。伊藤興業の資産が他にあるかどうかはともかく、これが主たる資産だとしましょう。今回伊藤氏が目指すMBOでは様々な諸費用を入れると必要資金は想像以上に膨らみ、10兆円程度になるかもしれません。買収資金以外に1-2兆円ぐらいは様々な費用で消えるからです。とすれば5300億円の担保で約20倍の資金を集めなくてはいけないのです。現在、伊藤忠商事などにも声をかけて買収新会社に加わるよう依頼していますが、この買収実現可能でしょうか?

かなり困難だと思います。どうやるかと言えば買収先資産を担保にするレバレッジドバイアウトの手法を使います。但し、問題はセブンの現在の時価総額が6兆6千億円しかないのです。つまり伊藤氏が必要とする10兆円と6兆6千億円の差額、3兆4千億円のギャップを埋める理屈が成り立たないのです。

それとこの試算はあくまでも担保価値として現在の株価x持ち株数を100%で計算していますが、実際に資金調達する場合、担保の掛け率が出ます。私の知る限り実態としては3-5割引きだろうと思います。ということは一般的な資金調達としてはほぼ成り立たないのです。

そこで突如現れた報道が「セブン創業家、米ファンドに参加打診 買収資金確保狙う」(日経)であります。つまり伊藤忠や日本のメガバンクらのシンジケーションローンだけでは足りないのでアメリカのファンドにも声をかけるという訳です。さて、ここで思い出してもらいたいのが同じようなことをしてドツボにはまった東芝です。同社が非上場化を避けるために様々なファンドに声をかけ、資金調達をした結果、東芝は解体的出直しを余儀なくさせられ、消極的な意味での非上場となりました。

この攻防、一歩、引いてみた方が良いと思います。2つの会社がセブンに恋焦がれています。ではどちらと一緒になるのが幸せになるのか、そう、単純にわれわれが経験したのと同じ、結婚相手の最終選択肢をどうするのか、という見方にしてみると面白いと思います。