公益通報者保護法は、マスコミ等への「外部通報」について、「そのような事実があることを信じるに足りる相当な理由があること」(真実相当性)に加えて、
(ⅰ)内部通報では証拠隠滅のおそれがあること
(ⅱ)通報者を特定させる情報が洩れる可能性が高いこと
(ⅲ)内部通報後一定期間調査の通知がないこと
(ⅳ)生命身体への危害等の急迫した危険があること
のいずれかに当たることを要件としている。6の事項については、上記の(ⅰ)(ⅱ)のいずれか又は両方の要件は認められる可能性が高いので、「真実相当性」の要件を充たせば「外部通報」に該当する可能性はある。
しかし、少なくとも元県民局長の告発文書の内容は、上記6の事項以外は、斎藤知事のパワハラ問題も含め「通報対象事実」には該当しないものがほとんどであった。
斎藤知事の対応の問題とその背景しかし、だからと言って、この問題に対する斎藤知事の対応に問題がなかったわけでは決してない。
元県民局長の告発文書には、県の公金支出の在り方についての重大な問題である前記7の事項や、県のトップとしての適格性にも関わる前記6の斎藤知事のパワハラ問題などが含まれていた。そのような文書が、県の内部者によってマスコミや県議会関係者にばら撒かれたのであるから、公益通報者保護法との関係は別として、そのような問題を指摘されたことに対して、県のトップである知事として、しっかり向き合い、事実の有無と評価を客観的に明らかにし、県民に対して、或いは県議会に対して説明するコンプライアンス上の義務があった。
ところが、斎藤知事は、自身の問題についての「県の内部者によると思われる匿名告発」を、「怪文書」のように扱い、事実の指摘に全く向き合おうとせず、そのような文書を外部に拡散したことを問題にした。県執行部に告発者を特定する調査を行わせ、それが元県民局長であることを突き止めると、知事定例会見で「嘘八百を含む文書を作って流す行為は公務員として失格」などと批判し、元県民局長の懲戒処分を行った。そして、この告発文書のことが県議会で取り上げられ、百条委員会の調査の対象とされ、元県民局長も証人喚問されることが決まっていたが、その直前に自殺したのである。