これにより、ナトリウムイオンはHVの壁(細孔)を通過し、高濃度の海水から低濃度の海水へと拡散によって移動します。
イオンは正または負の電荷を持っているため、イオンの移動が続くとHVの壁(細孔)の片側に正電荷がたまり、もう一方には負電荷がたまります。
このようにして、HVの壁(細孔)の両側に電荷の差(電位差)が生じます。
以上から、深海の蛇紋岩を主成分とする深海熱水噴出孔(HV)の壁(細孔)が、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)等を選択的に輸送し、これらのイオン勾配を電気化学的エネルギーに変換していると考えられています。
この現象が、自然の地質環境に存在する流れや濃度勾配により浸透圧エネルギーを自発的に変換するしくみです。
ここで、HVの内部構造を詳細に見ていきましょう。
HVの内部は非常に複雑な構造を持っており、主に「ブルーサイト」という鉱物で構成されています。
このブルーサイトはナノスケールの結晶から成り立ち、柱状の構造が層を成していることが確認されました。
これらのナノ結晶は、互いに連結しながらナノサイズの細孔(2~100ナノメートル)を形成しています。
ナノ細孔は、流体が通る流路を作り、その流路の表面には、ブルーサイトのナノ結晶が整然と並んでいるのです。この細孔構造は、外部環境から様々なイオンを取り込む役割を果たしています。
HV内のナノ結晶の整列は、X線回折法を用いて解析されました。
その結果、ブルーサイト結晶面が一定の方向に並んでおり、この配列がHV全体にわたって持続していることが分かりました。