注意:ピーナッツアレルギーの人がピーナッツを大量に食べていいわけではない
オマリズマブの運用において、最も注意すべき点はアレルギーを根治させる薬ではないという点にあります。
オマリズマブはアレルギーの根幹である免疫システムの勘違い(誤報)を治すのではなく、誤報が炎症などの強い反応を引き起こさないよう、警報システムであるIgEを抑える役割をします。
ではIgEを抑える薬を大量に接種すればいいと思うかもしれませんが、それは悪手です。
IgEが失われれば、寄生虫などの感染に対して強い反応を起こせず、結果として免疫力が低下してしまいます。
オマリズマブの最も重要な性質は、IgEを適度に抑えることで重大なアレルギー反応を起こるのを抑えることにあります。
そのためピーナッツアレルギーの人がオマリズマブの投与を受けたとしても、ピーナッツを大量に食べられるようになるわけではありません。
オマリズマブができるのは、うっかり食べてしまった少量のアレルゲンが命を奪うような重大な状態になるのを防ぐことであり、体からアレルギーを消してくれることではありません。
研究者たちも、オマリズマブを投与したとしても「アレルギーのある食品は避け続けなければならない」と述べています。
しかしオマリズマブを事前に投与しておくことができれば、アレルギーで命を落とす人を大幅に減らすことができます。
自分で食べていいものの判断ができない幼い子供が、たった1粒のピーナッツで命を落としたり、旅行先で口にした1口の料理で緊急入院しなくてよくなるのは、大きな利点となります。
また今回の治験では、およそ14%の被験者がオマリズマブが全く効果を発揮せず、ピーナッツを1粒も食べれないままであることが判明しました。
研究者たちは一部のひとたちで効果が出ない原因を解明できれば、より効果的なアレルギー治療薬ができる可能性があると述べています。
参考文献
Breakthrough: FDA Approves First Drug For Dangerous Food Allergies
元論文
Omalizumab for the Treatment of Multiple Food Allergies
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。