アレルギー治療薬「オマリズマブ」は抗体を攻撃する

なぜ1種類の薬が複数のアレルギーに効果があるのか?

その答えは問題となる抗体への攻撃にありました。

オマリズマブの正体はIgE(免疫グロブリンE)と呼ばれる特定の抗体を攻撃するように設計されたモノクローナル抗体です。

(※モノクローナル抗体とは、攻撃対象となる相手(抗原)の部位のなかで1種類だけを選んで結合する抗体です。単純な仕組みであるため、がん細胞など特定の光源に結合する薬として利用されています)

IgEは主に寄生虫などの異物を検知したときに免疫細胞によって分泌され、マスト細胞などに結合すると、ヒスタミンなどの炎症を引き起こす物質の分泌を促します。

IgEの分泌は通常ならばウイルスや細菌などの異物と戦うために重要な働きをします。

IgEは発見報告を受けて強い反応を起こすための警報装置としての側面があります。
IgEは発見報告を受けて強い反応を起こすための警報装置としての側面があります。 / Credit:川勝康弘

人間社会で例えるならば、異物発見の報告を受けてたIgEは軍事基地に詰めている軍隊に対して出動命令を下す警報装置と言えるでしょう。

ごく簡略化すれば「異物認定(通報)➔IgE分泌(警報発令)➔炎症などの強い反応(軍隊出動)」となります。

しかし免疫が誤って「食品」を敵として認定してしまった場合、その食品を摂取するとIgEが分泌され、炎症をはじめとしたアレルギー反応を引き起こすようになってしまいます。

つまり通報の段階で「誤報」となるわけですが、後に控える警報が自動的に発令(IgE分泌)され、大掛かりな軍隊の出動(炎症)が起きてしまいます。

アレルギー症状はこの誤報によって生じる炎症などの反応全般のことを指します。

またこのアレルギー反応が強すぎる場合「アナフィラキシーショック」が起こり、命が脅かされることもあります。

アレルギー症状を起こさないようにするにはそもそも「誤報」をさせなければいいのですが、免疫システムは頑固な一面があり、1度下した敵認定を容易に忘れてはくれないのです。

というのも免疫システムの記憶は、実は、敵の部位情報を自らの遺伝子に刻み込むことで行われているため、忘れるためには覚えている細胞を殺すか、覚えている遺伝子を書き換える必要があるからです。

一般に、遺伝子は後天的には書き換わらないものではありますが抗体の遺伝子にかんしては例外であり、敵を覚えるために書き換わりを行っているのです。

そのため研究者たちは頑固な「誤報」を正すのではなく、次の段階であるIgE分泌を抑える手法に切り替えました。

誤報があっても警報を抑えられればアレルギーも抑制できます
誤報があっても警報を抑えられればアレルギーも抑制できます / Credit:川勝康弘

元となる誤報を妨げられなくても、警報の音を小さくすることができれば、大規模な軍隊の出動もなくなります。

つまりアレルギー症状となる炎症をはじめとした反応を起こりにくくできるのです。

そしてモノクローナル抗体であるオマリズマブはIgEに取り付いて動きを邪魔する効果を発揮できます。

またIgEの分泌はさまざまな「誤報」で共通して起こる現象であるため、IgEの働きを鈍らせるオマリズマブは複数の異なるアレルゲンに起因する複数のアレルギー症状を同時に抑えることができるのです。

研究者たちは「理論的にはオマリズマブの投与であらゆるアレルギー症状に対する耐性を持たせることができる」と述べています。

ですが研究者たちはオマリズマブの運用について注意すべき重大な点について述べています。