■「起訴された犯罪」

この章でも、起訴された犯罪に適用される「NY州統合法 第一級業務記録改竄罪 刑法第175条第10項」について述べる前に、「付随責任」の項で「法律は、2人以上の個人が共同で罪を犯すことがあり、一定の状況下では、それぞれが他の者の行為に対して刑事責任を問われることがあることを認めている」と、コーエンとトランプが「協調した」ことを示唆する。

続けて「その定義」を述べた後、要旨こう述べる。

被告が他人の行為に対して刑事責任を負うことが合理的疑いを超えて証明された場合、被告の犯罪への参加の程度や問題ではない。被告個人が犯罪を構成する全ての行為を行った場合と同様に有罪となる。

有罪であれ無罪であれ、評決は、それぞれの訴因について、全会一致でなければならない。しかし、被告を有罪と認定するためには、被告が個人的に罪を犯したか、他人と共謀して罪を犯したか、あるいはその両方であるかについて、全会一致である必要はない。

一般に陪審評決は「全会一致」が原則とされるが、マーチャン判事はここで、被告の有罪が「単独犯か」「共謀犯か」「その両方か」については全会一致である必要はないことをことさらに強調する。この辺りも12人の陪審員全員が全34訴因を有罪とした要因の一つではなかろうか。

話を戻す。指示書は「第一級業務記録改竄罪刑法第175条第10項」に関して、「企業」「業務記録」「故意」「詐害の意図」「他の犯罪の実行または隠匿の意図」について説明し、「検察側は他の犯罪を実行する意図、またはその実行を幇助もしくは隠蔽する意図を証明しなければならないが、他の犯罪が実際に実行されたこと、幇助されたこと、または隠蔽されたことを証明する必要はない」としている。

続いて指示書は「NY選挙法第17-152条」の説明に入る。同条項には「違法な手段によって公職にある者の選挙を促進または阻止しようと共謀し」「実行された」場合、「共謀の罪に問われる」とあり、検察は「被告が意図した他の犯罪」がこれに違反していると主張する。

そして指示書は「違法な手段によって」について、「その違法な手段が何であるかについては全員一致である必要はない」とし、本訴訟では「 (1) 連邦選挙運動法違反、(2) その他の業務記録の改竄、(3) 税法違反」が考慮されるとしている。ここも陪審員全員が全34訴因を有罪とした要因の一つと思われる。

「連邦選挙運動法」では、「大統領職を含む連邦政府の選挙に関して、個人が故意に候補者に一定の限度額を超える寄付を行うことは違法とされているとし、15年~16年当時の上限が2700ドルだったとまで説明している。ポルノ女優に支払った13万ドルがこれに当たるという訳か(税法違反は省略する)。

次の「その他の業務記録の改竄」の項では、「詐取の意図を持って企業の業務記録に虚偽の記載を行った、または行わせた場合」、NY州では「第2級業務記録改竄罪」に問われると述べている。

指示書は34件の「訴因の詳細」説明の章に進む。大半が17年のコーエンから「TO」への請求、コーエンへの支払いとその小切手類や記帳などに関わるものである。指示書は「被告が、他の罪を犯す意図、またはその犯罪の実行を幇助もしくは隠蔽する意図を含む詐欺の意図をもって行ったこと」を検察が「合理的な疑いを超えて立証したと判断した場合」、「被告をこの犯罪で有罪としなければならない」とする。

ここでいう「他の犯罪」とは「NY選挙法第17-152条」の違反であろう。指示書は、これのリマインダーとして邦訳で約3300字の「第一級業務記録改竄罪」の章の説明を「訴因の詳細」の後で再度そっくり繰り返している。これが陪審員をどう印象付けたかは知る由もないが、訴訟自体に疑問を持つ筆者にですら、この長大な指示書を読むうちに「被告は有罪か」との思いが湧くほどだ。

指示書はこの後、「審議」「陪審員のメモ取り」「証拠品・読み返し・法律に関する質問」「陪審長の役割」「評決用紙」「陪審員の審議ルール」などの事務的な注意事項と連絡事項を述べて結ばれている。

本件の主たる訴因は、「口止め料」を「訴訟費用」として処理し、「選挙費用」と記帳しなかったことが「NY州統合法 業務記録改竄第175条第10項」に違反し、それが二次的に「NY選挙法第17-152条」に抵触するというものらしい。が、トランプはこの訴訟で自分が「どんな罪に問われているのかさっぱり分からない」とし、「マザー・テレサ」でも勝てないだろうと嘆じた。

そもそも「口止め料」自体は犯罪ではないし、それをなぜ支払ったかはトランプの内心を覗かない限り判らない。主たる証拠は、選挙資金法違反、脱税、銀行詐欺など8件の罪状で18年12月に3年の懲役刑に処されたコーエンが、「16年大統領選挙に影響を与えることを目的に、トランプの指示で選挙資金法に違反した」と述べたことだ。

縷説した指示書は、バイデンへの献金者であり、娘のコンサル会社が多くの民主党議員をクライアントにしているマーチャン判事が、コーエンとトランプの共謀や全会一致が必要ない条件などを示唆する文言を随所で強調することで、陪審員を有罪評決に誘導するための道具ではなかったか。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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