あのときのユーザーたちが生きて電動キックボードを返却できたのは、私だけでなく他の運転者が交通規則を守ったうえで、かなり神経を使って彼らと接触しないように運転していたからにほかならない。
そもそも交通戦争と呼ばれるほど不注意と無法運転が多かった半世紀前の日本では、電動キックボードの路上運転など成り立たなかったはずだ。なにせ1970年の交通事故死者数は1万6,765人で、現在の5倍だった。
ではLUUPは何をしたか。法改正されていらなくなったからと電動キックボードからバックミラーを取り外した。安全対策ではオリジナルヘルメットをたった100名にプレゼントしてお茶を濁した。折れ曲がったり紙ゴミのようにくしゃくしゃになったナンバープレートを放置した。最近では電動キックボード置き場が、消火栓や水道メーターなど安全のための設備やインフラ維持に欠かせない場所に設置されて迷惑を振りまいている。
前出の男性は当て逃げされたとき腰を痛めてしまった。逃げ去る電動キックボードの折れ曲がった小さいナンバープレートを読み取れるはずもなく、警察がやって来る頃には通りすがりの目撃者はどこかへ行ってしまい、「男と女の二人乗りに当て逃げされた」としか証言できなかった。
LUUPは運転者のデータとGPSの位置情報を持っているにもかかわらず、警察で対処しろの一点張りだ。衝突されたときユーザーを力づくで取り押さえておかないと、たいていはこうなる。
「電動キックボードが無免許で、ノーヘルで、公道を走れるなんて、おかしな決定でした。こうなったのも、薄汚いロビー活動のせいですよ」
民意で電動キックボードについての法改正が行われたのではない。これまで民意で道路交通法が規制緩和へ動いたことがあっただろうか。原動機付自転車いわゆるスクーターやカブは、年々規則が厳しくなるいっぽうだった。電動アシスト自転車もそうだ。新たな規則は、安全や社会秩序のためだったはずだ。