私がLUUPの電動キックボードに当て逃げされた1カ月前のできごとを話題にすると、ある男性が「LUUPの社員って、いまに刺されたりするんじゃないですか」と物騒なことを言い出した。乾いた笑みを浮かべ、「世の中の矛盾がバッテリーで走り回っている」とも言った。
幸いにも私は、ノートパソコンを入れたカバンと二の腕をぐいっと押しやられるくらいの衝突だったので怪我はなかった。だが男性はもっと派手にぶつけられて、声をかけたのに逃げられたのだという。
「運転しているチャラい連中には腹が立ちますが、LUUPという会社にはもっと──」
おおっぴらに公開する文章では書けない過激な言葉を連ねて怒りをあらわにした男性は、社会が築いてきた安全や秩序にLUUPがフリーライドしているとする見方は甘いと言った。
「タダ乗り? 違いますよ。僕らはLUUPに現在進行形で搾取されてます」
安全や秩序は行政や警察だけで維持されてきたのではなく、むしろ市民が望んで作り上げてきたものだ。善意や常識だけでは安全や秩序は手に入らないので、お金を払ったり投資して作り上げ、維持してきた。このコストをLUUPは搾取して、利益を上げているというのだ。
これで思い出したのが、荒れていた時代の渋谷センター街だ。
センター街の商店主たちがパトロールをして安全性を維持すると、街を訪れる人が増えた。この来訪者を目当てにルールを無視したり違法な商売をする連中が街を荒らした。商店主たちは自分たちの商売と街と来訪者を守るためパトロール活動を熱心に行った。だが安全性が保たれ来訪者の数が維持されたり増えれば、また悪質な商売が入り込んでくる。この悪質な店は、健全な商店主たちの労力や投資を搾取して利益を得ていたのだ。
私は当て逃げされただけでなく、自動車の運転中に何度もLUUPユーザーのめちゃくちゃな走行ぶりを目にした。いや、その度に危険を回避してきたと言ったほうが適切だ。