<人生における様々な困難に直面した場合でも、誰もが役割を持ち、お互いが配慮し存在を認め合い、そして時に支え合うことで、孤立せずにその人らしい生活を送ることができるような社会>――めざすべき社会像として、厚生労働省は「地域共生社会」をこのように定義しているが、いかにも逆行する実態が明らかになった。

 警察庁の発表によると、2024年1~3月の孤独死件数は全国で2万1,716件(暫定値)。そのうち65歳以上が約1万7,000人を占め、この人数を年間に換算すると約6万8000人に達する。65歳以上の単身世帯が増えれば、孤独死はさらに増えてゆく。厚労省によると2040年頃には、全世帯数のうち5世帯に1世帯が65歳以上の単身世帯を占めると推計されている。つまり、5世帯に1世帯で孤独死が発生するリスクがあるといえる。

 この現状に切実な思いを抱いている経営者がいる。モバイルシステムインテグレーター、ビーマップ(東証グロース上場)の杉野文則社長である。きっかけは地方で暮らす母親の身に起きた出来事だった。

「母は一人暮らしだったが、10年前に軽い脳梗塞を発症して3回ほど自宅で倒れた。3回とも近所の人が発見してくれて一命を取り留め、今は妹が面倒を見ているが、誰にでも同じような心配があることを痛感した」(杉野氏)

 それだけではない。1964年生まれの杉野氏は今年61歳。子供が独立したので夫人と2人暮らしを続けているが、夫人の外出中に急性疾患が発症して倒れ、帰宅後に発見されるような事態に直面しても決して不思議でない年齢になった。自身を当事者として想像すると――。

「倒れて誰にも気づかれずに最後の1日とか3日とか、あるいは1週間をもがき苦しんだ挙句に亡くなるような事態は絶対に避けたい。私はこれまで幸せな人生を送ってきたのに、寂しい最期だったという結果になってしまう」(同)

 自社の保有する技術を見守りに活用できないだろうか。見守りサービスを収益事業として確立するだけでなく、社会インフラとして普及させて孤独死を減らしたい――。そんな動機でサービス開発に着手したのである。

3タイプの見守りサービス

 開発したのは、安否確認と健康管理を提供する3タイプの見守りサービス「おうちモニタ」で、2023年10月に販売を開始した。「電力使用データ活用の見守りサービス」「ベッドデバイス活用の見守りサービス」「Wi-Fiを活用した見守りサービス」、それぞれのサービスを紹介しよう。

 電力使用データ活用の見守りサービスは、契約者の自宅に設置されたスマートメーターの使用電力データをビーマップがAIで解析して、普段と異なる解析結果が検出された場合、契約者が家族や管理人などを連絡先に指定して、LINEなどにあらかじめ登録したアカウントに通知する。通知を受けた連絡相手は、契約者宅に駆け付けて必要な処置を行う。

 このサービスは2020年の電気事業法の改正によって、電気事業者以外の事業者でも、契約者本人の同意を得れば本人の電力データの活用が可能になった。ビーマップは、一般社団法人電力データ管理協会を通じて電力データの提供を受けている。AIによる解析手法の開発では24年4月から、東京理科大学や早稲田大学在籍の学生が中心に運営するCryptoAI(東京都渋谷区)および東京大学在籍の学生が中心のエメレイド(東京都文京区)の大学発ベンチャー2社と協業を進めている。

 ベッドデバイス活用の見守りサービスは、ベッドの脚元に厚さ8ミリメートルのセンサー機器を設置して、心拍数、呼吸数、離床状態、睡眠状態などのバイタルデータを計測できるサービス。カメラが不要なのでプライバシーも安心なうえに、家族や介護スタッフなどがデータを遠隔で確認でき、異変が生じれば登録先のスマートフォンにアラームで通知する。

5世帯に1世帯が孤独死リスクに…高齢単身世帯の不安を解消するサービス
(画像=『Business Journal』より 引用)

 Wi-Fiを活用した見守りサービスは、2つのセンサーをリビングやトイレなど任意の部屋に設置して、スマホアプリのセットアップを行い、室内全体をくまなく見守る。Wi-Fi電波が室内のわずかな動きを捉えて、AI エンジンが波紋の変化が何を意味しているかを判定する。人の存在の有無、動き、各種バイタルデータを計測し、異常が発生したら登録したスマートフォンにアラートを発信する。契約者本人が室内に存在するだけで健康状態を見守れるサービスだ。