ここでは人間や動物が発する音、自然音、音楽の音色、道具が発する音などに死の笛の音を加えて、それをランダムな順番で被験者に聞かせます。

このとき、被験者は死の笛が提示された音サンプルの中に入っていることは知らされておらず、純粋に音だけから何を感じたかを答えてもらいました。

これと別に、被験者のうちの32名には死の笛を聞いている最中に、 fMRI(磁気共鳴機能画像法)による脳活動スキャンを受けてもらっています。

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死の笛(SW)を聞いて活性化した脳領域を調べたもの / Credit: Sascha Frühholz et al., Communications Psychology(2024)

その結果、被験者の多くが似たような反応を示すことが確認されました。

彼らの脳内では死の笛を聞いたときに低次聴覚皮質領域が活性化しており、これは彼らの脳が厳戒態勢にあることを示すものでした。

この脳領域は悲鳴や赤ちゃんの泣き声といった嫌悪や不安を呼び起こすような音に反応して活性化することが知られています。

つまり、脳は死の笛の音を「脅威」と認識していたのです。

それを指し示すかのように被験者は死の笛を聞いたときに恐怖や不安、嫌悪感を感じており、「音を止めてほしい」と回答していました。

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死の笛のレプリカ/ Credit: Roberto Velázquez

また被験者の多くは、他の動物の鳴き声や自然音、楽器の音色とは違い、死の笛の音が「自然物によって出された音なのか、人工物によって出された音なのか」を明確に識別できませんでした。

このように音を明確にカテゴリー分けできず、出どころがはっきりしないような音は心理学的に人々を不安にさせやすいことが知られています。

まさに死の笛の音は、そうした「正体不明で得体の知れない不気味な音」として認識されていたのです。

以上の結果を受けてチームは、死の笛が現代人においても恐怖や嫌悪感を誘発させる効果を持つと実証されたことから、古代アステカ人は笛の特性を理解して、敵を脅したり、生贄の儀式の参加者に畏怖の念を抱かせるような使い方をしたとみて間違いないだろうと話しています。