詐欺を行う人に有利なルールになっていた

 なぜメルカリ運営元は“まずい対応”を繰り返したのか。経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。

「メルカリの問題の根幹には、設立当初からプラットフォーマーとして『個人間の取引にメルカリ側は一切関与しない』というルールを設定したことがあります。これは多くのプラットフォームがリスク回避の目的で設立当初に設定するルールであることは事実です。たとえばSNSの運営企業はフェイクニュースが投稿されることに対して法的に責任を持ちません。それと同様のルールを運営開始当初に設定したことは、ベンチャーの起業としては別におかしいことではないのです。

 ただ、メルカリが大きくなるにつれて2つの問題を抱える事態になります。ひとつはパーセンテージとしては少ないけれども一定人数のユーザーが出品者ないしは購入者の立場で詐欺的な取引で被害にあってしまい、その恨みが少しずつ積みあがったことです。

 そしてもうひとつが『取引に関与しない』という原則がいつの間にか変節して、詐欺を行う人に有利なルールになっていたことです。今回問題になったのが、購入者が送られてきた商品に不具合があったとして返品を申請したうえで、送られてきたものと違うものを返送するという手口です。取引に関与しないのであればトラブルが解決するまでの間、購入代金をメルカリが凍結すれば、まだ中立といえたかもしれません。

 ところがメルカリは購入者側にたって取引をキャンセルしてしまいました。この対応が一般に行われてしまえば、購入者側が詐欺を行えば、正直な出品者が損失を被り、詐欺を行った側が得をする仕組みになります。

 別の投稿としてSNS上ではこのような事例も報告されました。ブランド品を出品したケースで、購入者が商品を受け取った後で一方的に『偽物を送られた』と主張してキャンセルを申し出たケースです。このケースでは商品が返送されないにもかかわらず出品者の口座が凍結され、出品者は商品が取り戻せない状況になりました。

 このように『取引に関与しない』ルールのはずがいつの間にか、詐欺側に有利な形でメルカリが取引に介入している事例が増加したことが今回の炎上につながりました。

 こういったケースについてこれまでメディアが取材を求めても、広報が個別の事例についてのコメントを差し控えると回答してきたことも問題を大きくした原因でした。会社が対応してくれないことから、不満がSNS上で爆発する流れが生まれたのです。

 SNS上に投稿された事例がすべて正しいかどうかはわかりませんが、これだけの数の事例が証拠のスクリーンショットとともに投稿され、それで世論が炎上したところを考えると、メルカリの対応として利用者に不利益な対応が少なからず繰り返されてきたことが問題をここまで大きくしてしまったように感じます。もっと早く消費者の声に耳を傾けていれば、このような事態は招かなかったものと考えられます」

 中堅IT企業役員はいう。

「今回のリリースで少し驚きだったのは、『こういう具体的な対策を取ることになりました』という説明ではなく、『対策をこれからきちんと考えます』となっている点です。以前からユーザーによる同様のトラブルの報告はみられており、メルカリも大企業化して動きが遅くなっているという印象を受けます。今回の声明の文面から読み取ると、件数自体は多くはないため、事務局としても重く受け止めていなかった可能性や、そのため経営の上層部にまで報告が上がらずに社内で問題が共有されていなかった可能性が考えられます。事務局が出品者に対して、返品詐欺を企てる購入者からの返品要求に応じるよう画一的な返答を繰り返している点からも、それがうかがえます。SNS上でここまで炎上状態に発展していなければ、問題が放置されたままになっていた可能性すら感じます。

 また、メルカリという企業はテック志向で、強さの源泉が高いIT技術力にあるという特徴があるため、サポート部門・業務というのが社内で軽視されがちな面があったのかもしれません」