それに対し、ブラジルのリオデジャネイロで開催されたG20首脳会談に参加中のショルツ首相は記者団に質問され、「私の考えには変化はない。射程距離500キロのタウルスの供与はロシア側の反発を受け、戦争を激化させる恐れがある」と説明、タウルスの供与はないと強調している。ちなみに、独民間ニュース専門局ntvの電話調査ではドイツ国民の52%は供与に賛成、反対は48%だった。国民の意見がほぼ2分されている。

興味深い点は、バイデン大統領は来年1月には退任する身であり、ショルツ首相はドイツで来年2月23日に実施される連邦議会選では再選の可能性はほとんどない。すなわち、ウクライナに今回、長距離ミサイルの供与、対ロシア領への使用許可問題について、2人の米独首脳は来年上半期にはもはやその地位にいない政治家だということだ。その後は、米国ではウクライナ戦争を即停戦すると豪語するトランプ氏が再登場する一方、ドイツでは野党第1党の「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルツ党首がショルツ首相の後継者となる可能性が高い。メルツ氏はタウルスのウクライ供与では英仏両国と同様、許可するのではないかと推測されている。ちなみに、フランスやイギリスは射程の長い巡航ミサイル(ストームシャドウやSCALP-EG)をウクライナ領内での使用に限定する条件付きで供与してきたが、米国に倣ってこの制約も撤廃される見込みだ。

ショルツ連立政権に参加している「緑の党」所属のベアボック外相は、バイデン政権の政策変更について「自衛権とは、病院にロケット弾が着弾するのを待つのではなく、発射される段階でこの軍事テロを防ぐことだ。ロシア側は常に欧州諸国を威嚇してきたが、実際は行動していない。欧州諸国の中にはロシア側の威嚇を恐れてロシアへの強硬政策に躊躇する国もあるが、欧州は今こそ、ロシアに戦争犯罪を繰り返すと許さないといった強硬姿勢を取るべきだ」と述べている。