自民党安倍派(清和政策研究会、以下、「安倍派」)が開催した政治資金パーティーに関して、所属議員がノルマを超えて販売した分が派閥から議員側に還流され、その分が、派閥の収支報告書にも、議員の収支報告書にも記載されず“裏金”にされたとされる問題12月13日の臨時国会閉会後、東京地検特捜部の捜査が本格化している。近く安倍派に対して強制捜査が行われるとの報道もある。

特捜部は、全国から応援検事数十人を集めて異例の大規模態勢で捜査を行っているとのことであり、直近5年間で計5億円規模に上るとされる安倍派の「裏金」の解明に乗り出すとされ、国民の期待を一身に背負う形となっている。

もともと告発された事実は、「派閥の政治資金パーティーで20万円以上のパーティー券を購入した者の氏名等の不記載があり、その金額が自民党5派閥合計で4000万円あった」という形式的な違反の問題だった。しかし、それを受けて検察捜査が本格化し、パーティー券のノルマ超の売上が裏金として派閥所属議員に還流していた事実が次々と具体的に報じられ、多額の裏金が議員の懐に入っていたことに対して、国民の激しい怒りが燃え上がる状況になっている。

ちょうど、今年10月にインボイス制度が導入され、「会計処理の透明化」の動きが中小企業にも及び、多くの国民がその負担に喘いでいる状況で、政治家の世界の「裏金」という言葉が出てきたため、「領収書不要の不透明な金のやり取り」に対して、強烈な反発が生じたことが、今回の「パーティー券裏金問題」への強い反発の背景にある。

「裏金」が、法的にどう評価され、政治資金規正法にどのように違反するのかということについての話はなおざりにされたまま、批判非難が高まってきたように思える。

しかし、もともと、議員立法で改正が繰り返されてきた「お手盛り」の「政治資金規正法」である。それだけに、刑事罰の適用についても、「裏金問題」を実際に刑事事件化するのが容易ではないことは容易に想像できるはずだ。実際にどのような点が高いハードルとなるのか、具体的に指摘した上、このような問題が起きないようにするための抜本的な対策を提示することとしたい。

東京地検特捜部 東京地方検察庁Wikipediaより

派閥側の立件

本件について、刑事立件の対象として二つの方向が考えられる。

まず、捜査対象の中心となるのは、政治資金パーティーを主催した安倍派側の政治資金規正法違反だ。

こちらの方は、政治団体の「清和政策研究会(安倍派)」の政治資金収支報告書について、会計責任者が、政治資金パーティーの収支を正しく記載する義務に違反し、ノルマ超の売上について裏金を還流させた分を収入から除外して記載したことについて、収支報告書の「虚偽記入罪」が成立することは明らかだ。

問題は、その刑事責任がどの範囲に及ぶのか、国会議員にまで及ぶのかだが、報道によれば、安倍派では、森喜朗氏が会長だった1990年代末から、このような「ノルマ超の売上の裏金による還流」の方法がとられていたとのことであり、それを継続していくことの実質的な意思決定は、派閥の「会長」が行っていた可能性が高い。基本的には、この虚偽記入罪の共謀関係は、会長と会計責任者の2人というのが常識的な見方であろう。しかし、その会長の細田博之氏は、既に亡くなっている。

では、会長と収支報告書の記載義務を負う会計責任者との中間に位置する「事務総長」のポストに就いていた国会議員について、「共謀」による虚偽記入罪で処罰できるか。単に、「ノルマ超の売上の裏金による還流」について、従前どおりに行うことを会計責任者から報告を受けていたというだけでは、通常、国会議員について共謀の刑事責任を問うことは困難だ。安倍派の収支報告書の記載について、幹部の国会議員の刑事立件も容易ではない。

「裏金」受領議員側の立件の困難性

さらにハードルが高いのは、「裏金受領議員」側の刑事立件だ。議員名と金額と、「政治団体の収支報告書に記載していないこと」が次々と報じられるが、ほとんどの議員が「捜査中」を理由に説明を拒否していることに対して、国民の反発が高まっており、これらの「裏金受領議員」は収支報告書の不記載・虚偽記入罪で刑事立件され処罰されるのが当然のように思われている。

しかし、現行政治資金規正法には、そのような「政治家個人が受領する裏金」の処罰が困難だという、「ザル法の真ん中に空いた大穴」の問題がある。

この点については、かつて2009年頃、陸山会事件の際に、自民党大物議員への裏金の供与が報じられた際にも指摘したし、Yahoo!記事では、2021年2月の「政治資金規正法、「ザル法」の真ん中に“大穴”が空いたままで良いのか」で、また今年公刊した「“歪んだ法”に壊される日本 ~事件・事故の裏側にある「闇」」でも、第2章「「日本の政治」がダメな本当の理由~「公選法」「政治資金規正法」の限界と選挙買収の実態」で、「「ザル法」の真ん中にあいた“大穴”」と題して「大穴」の問題を指摘してきた。

「裏金の授受」は、受領した事実を記載しない収支報告書を作成・提出する行為が不記載罪・虚偽記入罪等となるのであり、その授受自体が犯罪になるのではない。

国会議員の場合、個人の資金管理団体のほかに、自身が代表を務める政党支部があり、そのほかにも複数の関連政治団体があるのが一般的だ。つまり、一人の国会議員が管理する財布が複数あることになる。

それぞれの財布について、会計責任者が収支報告書を提出する義務はあるが、裏金というのは、領収書も渡さず、いずれの政治資金収支報告書にも記載しないことを前提にやり取りするものであり、通常は、複数ある議員の関連政治団体のうち、どの団体に帰属させるかは考えない。

ノルマを超えたパーティー券収入の還流は銀行口座ではなく現金でやりとりされ、収支報告書に記載しないよう派閥側から指示されていたとされている。その議員は、どの政治団体の収支報告書にも記載しない前提で、「裏金」として受け取り、そのまま、どの収支報告書にも記載しなかった、ということである。そうであれば、どの収支報告書に記載すべきだったのかが特定できない以上、(特定の政治団体等の収支報告書の記載についての)虚偽記入罪は成立せず、不可罰ということになる。

政治団体ではなく政治家個人宛の寄附として裏金を受領したということであれば、個人あての寄附は禁止されている21条の2第12第1項)、それ自体が違法である。敢えてそのような個人宛寄附として受領したというのであれば、違法寄附と認識して受領したことについての自白が必要だ。

また、裏金を、個人的用途に費消したり、個人的蓄財に充てられたりしていれば、個人の所得ということになり、税務申告していなければ脱税となる。但し、国税と検察で「逋脱犯の告発基準」を取り決めており、逋脱所得が単年度2500万円以上位でなければ脱税の刑事事件にはならない。

このことを図示したのが以下である。

政治資金としての処理に関しては、図で示したように、政党支部、資金管理団体、その他の団体など多数の「国会議員関係団体」が存在しており、違法な政治家個人宛の寄附ということもあり得る。「裏金」として受け取っている以上、個人宛か、或いは、どの団体宛か、収入の帰属先を考えておらず、どの収支報告書に記載すべき収入かを特定できない、ということなのである。