検察は、「大穴」をどのようにして乗り越えようとしているのか
このような政治資金規正法の「大穴」を、検察はどのようにして乗り越えようとしているのか。
マスコミ関係者の話を総合すると、検察は、以下の二つの方向で考えているようだ。
一つは、議員側に「裏金を本来帰属させるべきであった団体」を特定させるため、秘書や議員本人に特定の団体の収支報告書の訂正を行わせ、それについて、当初から当該収支報告書に記載すべきであったと認識していたと認める「自白」をとる、という方法だ。
しかし、「裏金」として受領したものである以上、特定の収支報告書に記載する前提ではなかったはずであり、事後的に特定の団体に収入として記載したとしても、それは、「当初からその団体への記載義務があると認識していた」ということにはならない。
「資金管理団体に入金処理すべき義務」はあるのかもう一つ、「資金管理団体」について、政治資金規正法19条1項で、
公職の候補者は、その者がその代表者である政治団体のうちから、一の政治団体をその者のために政治資金の拠出を受けるべき政治団体として指定することができる。
とされていることに着目して、資金管理団体を指定している以上、基本的に、政治家個人が受領した政治資金については資金管理団体に入金して収支報告書に収入として記載すべき義務がある、とすることも考えられているようだ。
そのように解することができるのであれば、「裏金」について資金管理団体の収入に記載しなかったことについて、収支報告書の不記載・虚偽記入罪が成立することになる。
しかし、国会議員が資金管理団体を指定していても、実際には、政治資金の収入を資金管理団体に一元化しているわけではなく、議員が代表者を務める政党支部等にも入金されている実情からすると、この考え方にはもともと無理がある。
逮捕された池田議員についても、これまでの清和政策研究会からの寄附は、資金管理団体ではなく政党支部に入金されて、それが政党支部の政治資金収支報告書に記載されている。実態としても、池田議員に関連する政治資金について、すべて資金管理団体に入金して収支報告書に記載すべき義務があったとは言い難い。
そもそも、資金管理団体について条文の「その者のために政治資金の拠出を受けるべき政治団体」という文言の意味が、政治家個人が受領した政治資金について資金管理団体の収支報告書への記載義務を課す趣旨であるか否かも疑問だ。
1994年の政治資金規正法改正の際に、資金管理団体の指定制度が導入された。この時点では、企業・団体献金を一定の範囲で受けることが可能とされており、政治家個人への政治資金を資金管理団体に一元化することをめざしていたように思える。
しかし、その後、1999年改正で、資金管理団体に対する企業団体献金が禁止され、政党支部がそれに代わる政治家個人の企業団体献金の受け入れ先となったことで、政治家個人にとって政治資金の拠出を受ける団体は「二元化」した。それ以降、政治家個人への政治資金の寄附を資金管理団体に一元的入金処理することが義務付けられていると見ることは困難だ。
しかも、租税特別措置法41条の18による「政治活動に関する寄附をした場合の寄附金控除の特例又は所得税額の特別控除」が、政党、政治資金団体、資金管理団体に加えて、2007年の政治資金規正法改正で規定された「国会議員関係政治団体」に対しても認められることとされたのは、このような資金管理団体以外の政治団体も当該国会議員に関する政治資金の寄附が認められることを前提にしているのであり、その関係からも、国会議員について、政治資金の寄附の入金先が資金管理団体に一元化されていると解することはできない。
「政治家個人への政治資金の違法寄附」との関係立憲民主党の小西洋之議員は、昨年12月31日に
検察の本気を疑う。裏金パーティーの本罪は会計責任者の虚偽記入罪ではない。派閥から国会議員への寄付はその提供も受領も明文で禁止されており、虚偽記入は違法寄付の隠蔽工作に過ぎない。政治家が失職・公民権停止となる本罪を放置し、会計責任者のみの立件は許されない。
とポスト(ツイート)している。
確かに、政治資金規正法21条の2第1項は、
何人も、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く。)に関して寄附(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く。)をしてはならない。
と定め、政治家個人宛の政治資金の寄附を禁止している。
安倍派から所属議員に「収支報告書に記載不要」と言われて渡された「裏金」は、違法な「政治家個人宛の寄附」だとみるのが自然だ。
元総務官僚の小西議員だけに、政治資金規正法の寄附制限の規定に関する指摘としては正しい。
しかし、「政治家個人宛の寄附」であることを証拠上確定するためには、「政治家個人宛の寄附として受け取った」という「自白」が必要だ。しかし、そうすると、政治家個人宛の寄附禁止の21条の2第1項の罰則は収支報告書の虚偽記入罪の5年より軽く、1年以下の禁錮又は50万円以下の罰金、公訴時効は3年だ。仮に、同容疑で立件したとても、時効にかからない事実は、2021年と2022年のパーティー分に限られ、「裏金」の立件金額は大幅に減ることになる。
このように考えると、違法な「政治家個人宛の寄附」での立件は、この事案の実体に即したものと言えるが、「自白」しない限り処罰できず、また、立件できる範囲が限られてしまう。
また、本来、違法な「政治家個人宛の寄附」で立件すべき事案であることは、資金管理団体の収支報告書の不記載・虚偽記入罪の立証の支障となる面もある。
既に述べたように、「政治家個人が受領した政治資金については、資金管理団体に入金して収支報告書に収入として記載すべき義務がある」との立論は、法改正の経緯からしても困難であり、事後的に資金管理団体の収支報告書を訂正したとしても、それによって、行為時に遡って記載義務が認められるわけではない。
仮に、裏金受領議員に、資金管理団体の収支報告書への記載義務があったことを「自白」させ、収支報告書の不記載・虚偽記入罪で起訴したとしても、公判で、「違法な議員個人宛の寄附であった」と主張された場合、もともと根拠がない「自白」はあっという間に吹っ飛ぶ。
検察は、なぜ池田議員を逮捕したのか以上述べたように、裏金受領議員の政治資金規正法違反での処罰は、もともと「無理筋」だと考えられる。
今回の政治資金パーティー裏金事件で、検察が、資金管理団体への記載義務があること、それを認識した上で収入として記載せず、それを除外した収入金額を記載した収支報告書虚偽記入罪で立件しようとするのであれば、行い得ることは、裏金受領議員側と話をつけて、略式請求・罰金による決着を図ることぐらいのはずだ。
ところが、検察は、1月7日に池田議員と資金管理団体の会計責任者の政策秘書を、政治資金規正法違反で逮捕した。否認している池田議員を起訴する前提で逮捕したということであり、「取引的決着」とは真逆の展開になった。
その理由について、検察側は、
「特捜部は実態解明には家宅捜索が必要と判断し、昨年12月27日に国会事務所などに入った。それでも、この時点では逮捕までは想定していなかった。」
「関係者によると、捜索の押収物の解析などを通じ、池田事務所がデータや資料を故意に破壊、破棄するなどした疑いが浮上した。さらに、隠滅行為には池田議員の指示があり、捜索後も継続しているのではないかと特捜部は判断。検察内では「相当に悪質」との見方が共有され、緊急的な判断で逮捕に踏み切った。」(1.8朝日)
と説明しているようだ
しかし、この事件での政治資金規正法違反での立件・起訴に向けて最大の問題は、「裏金」について、どの団体の収支報告書に記載すべきであったかを特定できるかどうか、という問題だ。
それについて池田議員は、「政策活動費だと認識して受け取り、政治資金収支報告書には記載していなかった」と説明し、資金管理団体への収支報告書に記載すべきだったことの認識を否定しているということだ。そのような池田議員の認識だとすると、罪証隠滅が行われたとは考えにくい。
「池田事務所がデータや資料を故意に破壊、破棄するなどした疑い」があったとして、それが、政治資金規正法違反の容疑にどう関係するのかは疑問だ。
むしろ、池田議員自身が関わって証拠の破壊等の罪証隠滅を行ったとすれば、共に逮捕された秘書との共謀に関する証拠か、受領した裏金の使途に関して何か表に出したくない使い方をしていた事実を隠したかったということぐらいであろう。
しかし、そのような罪証隠滅が、そもそも、犯罪の成否に重大な疑問がある事件、しかも、従来は、せいぜい略式請求・罰金刑にとどめていた政治資金収支報告書の虚偽記入罪による逮捕の理由として相当なものか、という点には疑問がある。
逮捕・勾留によって「人質司法」のプレッシャーをかけることによって、無理筋の政治資金規正法違反の犯罪事実を認めさせ、無罪主張を封じようとすること、他の裏金受領議員に対しても、逮捕の「威嚇」で、検察の意向を受け入れさせようとする意図によるもののように思える。