通常の室温や培養段階では、このSFCは非常に安定しており、風味化合物が揮発することはありません。

しかし、調理温度である150℃に達すると、SFCはジスルフィド結合が切れて風味化合物を放出し、肉の焼きたてのような香ばしい香りが広がるのです(下図C参照)。

研究では、SFCを導入したハイドロゲルを使った培養肉は、従来の培養肉と比較して、調理後の風味が飛躍的に向上することが示されました。

調理することで、肉らしい風味や香ばしさ、そして複雑な風味が引き出され、従来の肉と非常に近い官能特性を示したのです。

さらに、この研究では、培養肉をメイラード反応が起こる150℃で調理すると、さまざまな風味化合物が形成されることが明らかになりました。

これらの揮発性化合物は、2つの主な風味グループに分類されます。

1番目のグループとしては、生臭さや刺激的な風味を持つ化合物があり、これらは「不快な風味」とされます。

2番目のグループとしては、肉のような風味や硫黄、アーモンド、花、脂肪、フルーツのような風味を持つ化合物があり、「好ましい風味」として分類されます。

この研究では、メイラード反応を模倣する「足場」を使って、「好ましい風味」を持つ揮発性化合物の比率を増やすことに成功しています。

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スイッチャブル・フレーバー・システムの模式図。 a. スイッチャブル・フレーバー化合物(SFC)とゼラチンの足場構造の説明図、b. 培養肉の大きさ(スケールバーは8mm)、c. 温度によるSFCシステムのメカニズムの説明図 / Credit :  Milae Lee et al., Nature Communications(2024)

今後の展開

これまでの培養肉研究では、主に「食感」や「見た目」を重視した技術開発が進められてきました。

例えば、3Dプリンティング技術を使って、ステーキのような形状を再現したり、脂肪や筋肉を模倣したりする技術が開発されてきました。