培養肉は、肉を作り出す革新的な技術です。

持続可能で環境に優しいだけでなく、食料不足の解決策としても注目されています。

しかし、これまで培養肉には「おいしさ」という点で課題がありました。

特に、調理したときに出るあのジュワっとした香ばしい風味、いわゆる「肉らしさ」が足りないのです。

私たちが普段食べている肉の風味は、「メイラード反応」と呼ばれる化学反応によって生まれます。

高温で加熱すると、肉に含まれるアミノ酸や糖が反応し、肉の香ばしい香りを作り出すのです。

しかし、培養肉は本物の肉に特有なこの反応を再現できていませんでした。

そこで本研究では、調理の過程で肉の風味を引き出すための新しい技術を開発しました。

この技術は、「風味切り替え可能な足場」と呼ばれるものです。

この足場とは何でしょうか。

食肉として成り立つ大きさの培養肉を作るには、細胞に加えて、細胞を培養するための栄養成分、立体構造の骨組みとなる足場材料が必要です。

簡単に言うと、ゼラチンをベースにした立体のハイドロゲル(水を大量に吸収し保持できるゲル状の物質)を作り、「SFC (Switchable Flavor Compound)」と呼ぶ化合物を添加して足場を作製するというものです。

すなわち、温度に反応して肉のような風味を出す特殊なゼラチン素材を使うことで、培養肉の香りをコントロールするというアイデアです。

この新しい技術によって、培養肉が本物の肉と同じような風味を持つことができるようになりました。

韓国の延世大学の研究チームが、培養肉生産に用いるゼラチンベースの足場を開発しました。

この研究の詳細は『Nature Communications』誌に掲載されています。

目次

  • 肉の「風味」を決めるメイラード反応
  • SFCのしくみ
  • 今後の展開

肉の「風味」を決めるメイラード反応

私たちが肉を焼くとき、ただ温度を上げるだけでは肉らしい香りは生まれません。