② その発展の根底にはスターリンが推進した「重工業優先政策」があった。すなわち、消費財の生産よりも生産手段の生産に労働力や資源を集中する「重工業優先政策」である。スターリンは「生産手段の生産を優先しなければ、国民経済の成長は不可能になる」と言っている(同書233頁)。いわゆる「五か年計画」の成功はこのことを証明しており、評価すべき点と言えよう。生産手段は生産力発展に不可欠の基盤だからである。

③ マルクス主義理論に関しては、スターリンは「ソ同盟においても消費財生産・流通部門においては「価値法則(商品生産)」が存在し作用している」と述べている(同書228頁)。消費財生産・流通部門では、生産手段生産部門とは異なり、消費者の選択や嗜好が多様化するためと考えられる。評価すべき点と言えよう。

当時のソ同盟は農業部門など生産手段の社会化が完成していないため「過渡期の社会主義」であり、資本主義の「母斑」がある以上、一定の枠内での「価値法則(商品生産)」を全廃することはできないのである。「価値法則」とは商品の価値は商品化された労働の量によって決定されるという資本主義社会の経済原則である(黒田寛一『マルクス主義入門』第一巻『哲学入門』212頁あかね図書販売)。社会主義社会では労働力は商品化されないから、原則として「価値法則」は存在しないとされる。

④ スターリンが農民の土地を収奪せず、農民を集団農場(コルホーズ)や協同組合に組織化した点も評価できよう。スターリンは「農民の土地を犯罪的に収奪すれば、農民をプロレタリアートの敵の陣営に追いやるだろう」と述べている(同書222頁)。この場合、生産手段は国有ではなく集団農場や協同組合の所有である。

⑤ スターリンは「大衆的社会主義競争」の重要性を指摘している。「大衆的な社会主義競争により工業は加速度的に前進した。労働者の文化的・技術的水準が向上したからである」と述べている(同書237頁)。いわゆる「スタハノフ運動(社会主義労働英雄)」であり、労働者にも処遇の格差を設け、競争原理を持ち込み生産性の向上を図った。評価すべき点と言えよう。

『ソ同盟における社会主義の経済的諸問題』の誤謬