ソ同盟共産党書記長であり最高権力者であったスターリン(1879~1953)は、社会主義・共産主義に関する多くの著作を残している(スターリン『スターリン全集』全13巻、『スターリン戦後著作集』大月書店)。ソ同盟における社会主義建設や国際共産主義運動、国際政治に与えた影響は多大であったと言えよう。
上記著作のうち『スターリン戦後著作集』に収められている『ソ同盟における社会主義の経済的諸問題』(同書210頁以下)は、ソ同盟の社会主義建設やマルクス主義の基本原則、国際問題を論じており、重要文献と言える。本稿ではその評価と誤謬を論じてみたい。
『ソ同盟における社会主義の経済的諸問題』の背景革命前の帝政ロシアは、欧米諸国に比べ資本主義が未発達の後進資本主義国であった。したがって、1917年のロシア革命はいわば「資本論に反する革命」であり、「生産力が生産関係を決定する」(マルクス『経済学批判』序言14頁岩波文庫)という「史的唯物論」と矛盾する革命であった。
そのため、ソ同盟の社会主義建設は試行錯誤し困難を極めたことは想像に難くない。「一歩前進二歩後退」とも言える市場経済を取り入れたレーニンの「ネップ(新経済政策)」も、革命後の経済的困難を克服する苦肉の政策であった。遅れたロシアを前提に、レーニンは「共産主義とはソビエト権力プラス全国の電化」と言っている。
スターリンの上記著作『ソ同盟における社会主義の経済的諸問題』は、革命後30年以上が経過した1945年以後の著作である。したがって、ソ同盟における社会主義建設の成果を踏まえたものである。
『ソ同盟における社会主義の経済的諸問題』の評価すべき点① スターリンは、ソ同盟の「計画経済」の優位性を強調する。「1928年以後のソ同盟の「五か年計画」などの「計画経済」は、資本主義の競争原理による無政府生産や過剰生産恐慌に比べ、国民経済の均衡のとれた発展に寄与する」と主張する(同書216頁)。これは、1930年代のいわゆる「資本主義の全般的危機」の時代に、ソ同盟の計画經濟だけが高度成長を成し遂げた実績を背景とするものである。