トランプは「この中間選挙の年に倒すべきは民主党だけではない」とし、「この秋の投票所で民主党、社会主義者、共産主義者を倒す前に、まず今年初めの予備選挙でRINOsと大物議員を倒さなければならない」とも述べた。「RINOs」とは「名前だけの共和党(Republican In Name Only)」のこと。トランプは昨年1月のトランプ弾劾に賛成した共和党議員などに対してこの語を用いる。
サウスカロライナでの集会で「RINOs」を糾弾した訳は、同州の共和党トム・ライス議員がその一人だからだ。先月、ライスの対抗馬ラッセル・フライ下院議員を支持したトランプは、この集会でライスを「災害」「完全な愚か者」と批判した。ライスも集会後の声明でトランプを「暴君予備軍(would be tyrant)」 と呼び応酬した。
その最たる象徴のトランプに加えて、新型コロナでもウクライナ紛争でも、今の米国はあらゆる事象で左右の分断が生じている。否、分断は左右のみならず同陣営内にもあるし、逆に極左と極右が正反対の理由からひとつの政策で結論が一致するという珍現象も起きている。
例えば、最近発表されたQuinnipiac大学の全米成人調査によるゼレンスキーの評価は、64%が「好意的」で「好まない」は6%だった(29%は「判らない」)。共和党員でも61%が「好意的」で「好意的でない」は6%という結果だった。
だが、隣のノースカロライナで共和党のマディソン・コーソーン下院議員は10日、ゼレンスキーを「チンピラ(thug)」と呼び「ウクライナ政府は信じられないほど腐敗している」と支持者に語った。『WRAL-TV』がこのコメントを報じて1時間後、彼は発言を撤回、プーチンには「うんざり(disgusting)」する、「ウクライナとウクライナの人々のために祈っている」とツイートした。
このコーソーン発言に対立候補の1人、ミシェル・ウッドハウスは、彼のゼレンスキー批判は常識外れで「野暮ったい(boorish)」と指摘し、またチャック・エドワーズ同州共和党の上院議員も「はっきり言っておく。凶悪犯はプーチンだ」とツイートした。
これを報じた『WRAL-TV』がノースカロライナのNBC系列局であるせいか、「先月、トランプがプーチンを、“賢い”“天才”と呼び、この問題で居心地の悪い立場に立たされた共和党議員もいる」と書く。つまり、この記事は、そのトランプ発言が2月24日の全面侵攻前の22日になされ、26日のCPACでは侵攻を批判していたことには触れていない印象操作記事ということ。
世論調査といえば、13日の議会メディア『The Hill』も最新の『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』の調査では、2024年にバイデンとトランプが争うと仮定した場合、有権者の45%がバイデンを支持し、45%がトランプを支持することが判明しているとしつつ、次のように書いている。
この世論調査ではトランプの政治的回復力を驚くほど思い知らされる。前大統領は2度弾劾裁判にかけられた-1度はウクライナとの怪しげな取引で、2度目は1月6日の暴動を扇動したことで。彼はまた、偏向しているとしてソーシャルメディアのプラットフォームから追放された。それにもかかわらず、彼は現職の大統領を倒すためにデッドヒートを繰り広げている。
だが、トランプの2度の弾劾裁判は何れも無罪放免だった訳だから、罪のない彼を2度もお白州に引きずり出した「ナンシー・ペロシの政治生命をきっぱりと絶つのだ」とトランプが集会で吠えるのも宜なるかな。むしろ疑惑の矛先はヒラリーに向けられつつあることは既報の通りだ。
最後に極左と極右の奇妙な意見の一致の話。米国通なら誰もがイルハン・オマルやマージョリー・テイラー・グリーンの名を知っていることだろう。前者はアレキサンドラ・オカシオ・コルテス(AOC)と並んで民主党左派を象徴する、後者はトランプを熱烈に支持する、何れも若手の女性下院議員だ。
事態は、先週のウクライナ侵攻をめぐるロシアの石油輸入禁止と更なる制裁を求める決議で、民主党のオマルら2名とグリーンを含む共和党保守派15名が反対票を投じて起きた。前述のWSJ調査では79%が、ガソリン価格が上昇してもロシアの石油輸入禁止を支持しているにもかかわらずだ。
オマルは、この行動がロシアとヨーロッパの人々に「壊滅的な影響」を与えるという懸念から反対したと述べ、この制裁が戦争を仕掛けているクレムリンの指導者に本当に打撃を与える(hurt)ことになるのか疑問を呈した。