「命令に従う」という安易な責任回避

(3)の行動原理は、軍人が国益・倫理も考えずに思考を停止してプーチンの命令に従っているというものです。今回のウクライナ戦争におけるロシアの軍人について言えば、私はこの行動原理が圧倒的に強いと考えています。

極限状態に置かれた個人は、他人から命令されると自分の倫理的責任を回避できると考え、たとえその命令が理不尽であると認識していても簡単に服従してしまうことが【ミルグラム実験(アイヒマン実験) Milgram experiment】という有名な社会心理学実験によって立証されています。

第二次大戦中のドイツにおいては、このメカニズムによって、国民が残虐なナチスを支持し、軍人がジェノサイドを行い、普通の若者が突撃隊や親衛隊となって極悪非道のヒトラーに服従したのです。彼らは倫理的責任を放棄していたため、戦後は疑うこともなく戦争や虐殺の責任をすべてナチスに転嫁し、自己責任を回避しました。しかしながら、客観的に見れば、その熱狂的行動は「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という【集団極性化 group polarization】における【リスキーシフト risky shift】であったものと考えられます。

(1)(2)の行動原理は、最終的には自らの責任に基づくものであり、すべてが検証される戦後になれば、罪のない民間人を殺害した責任を回避することはできませんが、(3)の行動原理に従えば、加害の実行者も戦後は善良な市民に戻ることができるのです。しかしながら、それは見せかけに過ぎません。プーチンに好き放題させる状況を作ったのは、彼を熱狂的に支持した一人一人のロシア国民に他ならないからです。

このように、思考停止して独裁者の命令に従うという善良な市民の安易な責任回避こそが侵略戦争の狂気の本質であると私は考えます。

安易な責任の回避は現在の日本でも

さて、実は現在の日本でも、このような市民の責任回避が堂々と行われています。戦争とはまったく次元が異なるのが救いですが、コロナ禍の日本国民は、日本政府にコロナ対策という命令を出させることで、自ら考えてコロナと対峙する責任を回避したのです。

2021年12月のNHK世論調査によれば、岸田政権のオミクロン株の発生に伴う外国人入国禁止措置について、日本国民のなんと8割以上が日本の鎖国を望みました。2022年1月のNHK世論調査によれば、岸田政権の内閣支持率は7%上昇して57%、政府の新型コロナ対応については「評価する」が65%、まん延防止等重点措置については「拡大が必要」が58%という結果が得られました。この期に及んでも多くの日本国民は国民を束縛する「ゼロコロナ政策」に突き進む岸田政権を強く支持たのです。

岸田政権が科学的には根拠がないゼロコロナ政策を突き進んだのも、ワイドショーがゼロコロナ推進報道をやめないのも、ワイドショーに洗脳された多くの国民がゼロコロナを目的化してしまったからに他なりません。コロナ禍で最も懲りていないのは明らかに日本国民です。極めて深刻なことに、日本国民はコロナ禍を通して【自由 liberty】を求めることなしに、政府から私権制限を含む【命令 command】を受けて【服従 obedience】することを自ら求め続けたのです。

思えば日本国民は、私権制限に最後まで慎重であった安倍晋三首相と菅義偉首相に対して、「気の緩み」を防止すべく、科学的には効果が期待できない「人流抑制」を柱とする緊急事態宣言の発令を強く求めてきました。特に、菅首相に対しては「言葉が伝わらない」とブチ切れ、自らの自由を束縛する命令をするようヒステリックに求めたのです。

そもそも日本国民が気を緩めずに自粛するのが合理的であると考えていたのであれば、日本国民自らが気を緩めずに自粛すればよかっただけであり、菅首相に「気を緩めずに自粛して下さい」と言わせる必要はなかったはずです。

あまりにも幸福に生まれて災害に遭遇する以外には危機を知らない日本国民は、危機に際した時に責任ある行動をとることができず、全ての責任を政府に転嫁するため、政府に命令を求めたものと考えられます。極めておバカなことに、命令に飢えていた日本国民はテレビのワイドショーのコメンテーターの命令に従順に従いました。そして、コロナの波が到来して蔓延するたびに政権の支持率は低下しました。日本国民は自然現象であるコロナの蔓延を日本政府の責任にして罵倒したのです。

コロナ禍の場合には、日本国民に脅威を及ぼした相手はコロナウイルスという意思を持たない存在であったため、何とか騙し騙し対応してきましたが、日本侵略を狙う悪意ある覇権国家や日本の弱体化を狙う策謀国家などを相手にした場合には、このような日本国民のナイーヴな思考プロセスは国家の致命的な脆弱性となりかねません。今こそ日本国民は、自らに迫る危機に対して自らが責任を持つという意識改革を行う必要があります。危機はいつやってくるかわかりません。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2022年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。

文・藤原 かずえ/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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