予算審議の舞台が衆議院から参議院に移った国会では、「派閥政治資金パーティー裏金問題」での追及が続いている。

問題は、二つに絞られてきている。第一に、2022年に安倍元首相によりいったん還流が中止されることになったのに、安倍氏の死後に還流を実行することになったのは、誰がどのように決めたのか、第二に、政治資金パーティー売上の還流の裏金を受領した議員に対する所得税課税の問題だ。

第一の問題については、衆議院の政治倫理審査会で3人の元安倍派幹部が出席して弁明を行ったが、22年8月上旬の幹部の話合いの際、還流の継続が決まったか否かについて、西村康稔氏と塩谷立氏との間で話が食い違うなど、ますます疑惑が深まった。

参議院の政倫審では、その話合いに加わっていた世耕氏が「知らぬ存ぜぬ」の弁明に終始したことに対して、その後、政倫審に出席した西田昌司氏からも、世耕氏に対して厳しい批判が行われるなど、安倍派幹部に対する「風当り」は一層厳しいものになっている。

3月18日、下村博文氏が政倫審に出席した。安倍氏の死亡後、安倍派内部で中心から遠ざけられていた下村氏が、それまでの幹部とは異なる発言を行うのではないかが注目されたが、結局、新たな話はなかった。

本来の事実解明の場とは言い難い国会の政倫審で、疑惑への弁明と質疑による事実解明に期待が集中していること自体が、極めて異例であり、まさに混乱を象徴している。

政倫審の様子自民党HPより

「異例の事態」に至った理由

このような異常な事態になっているのはなぜか。

昨年12月から年初にかけて、地方から50人もの検事を動員し、膨大な国費をかけて行われた検察捜査が、政治資金パーティーによる裏金に対する国民の怒りに火をつけ、検察リークとしか思えない報道で裏金問題が炎上拡大したのに、捜査の結果明らかになった事実は、「各年の不記載の金額」以外全く表に出ないまま、既に起訴から2か月が経過していることに根本的な原因がある。

裏金還流の経緯を直接知っているはずの派閥会計責任者については、1月下旬に起訴されて以降、公判に向けての動きもなく、その供述内容について何の情報もない。そうした中で、「知らぬ存ぜぬ」を繰り返す安倍派幹部に質問を繰り返しても意味がない。

裏金議員への課税を阻んでいるのも「検察の捜査処分」

第二の点については、キックバックを「政治資金収支報告書に記載しない」前提で受領し、そのまま議員個人が保管していた事例もあることが、自民党のアンケート調査で明らかになっており、明らかに個人所得だと思えるのに、議員側には納税に向けての動きはなく、国税当局の税務調査も行われている気配はない。

昨年秋、インボイス制度が導入され、国民の多くがそれによる負担の増加に苦しんでいる。しかも、国会での追及が、確定申告の時期と重なったこともあって、「裏金議員が所得税を免れていること」に対する国民の不満が一層強烈なものとなった。

裏金議員の所得税納税の問題について、岸田首相は、国会で「裏金議員は所得税を納税すべきではないか」と追及される度に、「検察捜査の結果を踏まえて、適切に判断されるべき」との答弁を繰り返している。

裏金議員も、「政治家個人に対する寄附禁止規定が適用されるべきではないか」との指摘に対しても、「検察当局が厳正な捜査をした結果、そのような罰則適用は行われていない」として、同規定違反を否定する答弁を繰り返している。

検察捜査の方向性に重大な問題があった

岸田首相が、野党の追及をかわす最大の拠り所としているのが「検察の捜査処分」だが、そこには、重大な疑問がある。

最大の問題は、検察の捜査処分が、「政治資金規正法の『大穴』」の問題を無視したものであったことだ。

私は、この問題について、Yahoo!ニュースの当欄への投稿や、著書『歪んだ法に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA:2023年)等で、政治家個人にわたった「裏金」について、政治資金規正法での処罰が困難であること、この「大穴」を塞ぐ法改正が必要であることを訴えてきた。

今回の裏金受領議員についても、その「大穴」によって処罰が困難であることを、私自身の発信や様々なメディアへの出演で指摘してきた(「日本の法律は「政治家の裏金」を黙認している…「令和のリクルート事件」でも自民党議員が逮捕されない理由」など)。

政治資金収支報告書というのは、個別の政党、政党支部、政治団体ごとに会計責任者が提出するものである。国会議員の場合、政治団体である「資金管理団体」のほかに、自身が代表を務める「政党支部」があり、そのほかにも複数の国会議員関係団体があるのが一般的だ。つまり、一人の国会議員に「財布」が複数ある。

政治資金規正法で、政治資金の収支の公開の問題として罰則の適用の対象になるのは、どこか特定の政治団体や政党支部に収入があったのにそれを記載しなかったとか、それに関連して虚偽の記入をしたことである。

議員個人が「裏金」として政治資金を受け取った場合、それは、その議員に関係する政治団体・政党支部のどこの収支報告書にも記載しない、という前提で領収書も渡さずやり取りする。ノルマを超えたパーティー券収入の還流は銀行口座ではなく現金でやり取りされ、収支報告書に記載しないよう派閥側から指示されていたとされており、議員の側は、どの政治団体の収支報告書にも記載しない前提で「裏金」として受け取り、そのまま、どの収支報告書にも記載しなかった、ということである。

その場合、その還流金をどの収支報告書に記載すべきだったのかが特定できないので、政治団体等の収支報告書の不記載・虚偽記入罪は成立しないのである。

検察捜査は、この「政治資金規正法の『大穴』」の問題があることを踏まえて行われるべきだった。

政治資金規正法21条の2第1項は、「政治家個人宛の政治資金の寄附」を禁止している。

会計責任者、議員本人に、「収支報告書に記載しない前提の金である以上、資金管理団体、政党支部などに宛てた政治資金ではない」として、収支報告書を提出不要の「政治家個人宛の寄附」として受け取ったことを認めさせる方向で捜査を行うべきだった。それによって「政治家個人宛の寄附」であることの立証が可能になり、同時に、それを議員の個人所得としての課税することにもつながったはずだ。

しかし、実際の検察の捜査は、それとは真逆の方向で、還流金が資金管理団体などの政治団体に帰属していることを認めさせ、それをその政治団体の政治資金収支報告書に記載しなかった問題としてとらえようとした。

その結果、検察捜査は、裏金議員の殆どが刑事立件すらできず、僅かに正式起訴した池田佳隆及び大野泰正の2名の国会議員についても、果たして有罪立証ができるのかすら疑わしい(『「裏金」事件の捜査・処分からすれば、連座制導入は「民主主義への脅威」になりかねない』)という惨憺たる結末に終わった。