男性の遺族は公表したコメントでは、今年5月にジャニーズ事務所側に男性が被害を訴えた後、5か月以上連絡は一切なく、さらに、9月に再度告発をしたあとも、なんの応答もなく放置され、彼の焦燥感、悩みは深まっていたとされている。

ジャニーズ事務所は、10月2日の記者会見では、被害者の補償に向けて「被害者救済委員会」を設置するなどして、膨大な数の被害者に速やかに対応すると説明していたはずだ。前記拙稿でも述べたように、ジャニー氏による性加害の認定は、加害者が死亡しているため、被害者の供述だけで認定せざるを得ない場合も多い。

ジャニー氏本人にタレントデビューを約束されて性被害に遭い、そのまま約束が果たされず、ジャニーズ事務所に所属することもなく夢を断ち切られたという事案などでは、在籍の確認もできない。そこでは「虚偽の告発」を補償の対象としないことも必要かもしれないが、それを強調して、逆に「真実の被害申告」に対する誹謗中傷につながるとすれば、さらなる被害を生むことになる。

10月9日のリリースで報道機関に虚偽の告発への検証を求めたことは、誤った対応だったと言わざるを得ない。ジャニーズ事務所側が「虚偽の告発」に言及したことが被害者に対する誹謗中傷を拡大し、性加害の被害者の自殺という最悪の事態の引き金になった可能性がある。

調査報告書公表後の宝塚歌劇団の対応

歌劇団は、11月14日に調査報告書を公表し、遺族代理人弁護士からも、マスコミからも厳しい批判を受けた後も、亡くなった劇団員が所属していた宙組に加えて花、月、雪、星組と専科の全俳優約400人らへの聞き取りを進め、さらに生徒約80人への調査を行う方針だと報じられている。

そして、これらの調査結果を踏まえて、過密な公演日程や過度な指導などの実態を調査し、組織風土を改善するための改革案を作成し、それを検討する第三者委員会を設置する方針と報じられている。

阪急阪神HDは抜本的な対策を講じるため、幅広く意見を聴取した上で、外部の有識者に分析してもらう必要があると判断した。第三者委は大学教授やハラスメントの専門家などで構成するという。

とのことだ。

しかし、その前提となる調査結果が、批判を受けた外部弁護士チームの調査報告書と、当事者の歌劇団側による劇団員の聴取結果だというのであれば、そのようなものは「第三者委員会」とは言えない。単なる「外部者による改革案検討委員会」だ。それを「第三者委員会」とマスコミに説明するのも、些か無神経と言うべきだろう。

劇団員の死亡以前からこの問題を報じてきた週刊文春による追及報道も続いており、今後の展開は予断を許さない。

大手法律事務所の「不祥事対応」が招いた困難な状況

ジャニーズ事務所問題、宝塚歌劇団問題で、東京・大阪で一流と言われる大手法律事務所が「不祥事対応」に関与した。しかし、いずれも新たな批判を招き、今のところ、「失敗」と言わざるを得ない状況となっている。

ジャニーズ事務所は、「NG記者リスト」問題で批判を受け、会見のやり直しが必要との意見もあったが、前記のようなリリースで「言い訳」を述べる以外に表立った動きはなく、10月2日の会見では新会社の社長を兼務する方針とされていた東山氏の社長就任の辞退が報じられ、新会社の社長には別の人物を招聘すると言われているが、方針変更についての記者会見も公表も全く行われていない。

被害者への補償については、ようやく35人に金額の提示が行われたとされている。こうした中で、3回目の記者会見を行うことが必要となるが、これまでの2回の記者会見に同席した木目田弁護士が、どう対応するのかが問題となる。

宝塚の問題は、大江橋チームが行った調査には多くの問題があり、そのまま最終的な調査結果にすることはできないと考えられるが、再調査は行わず、その調査結果や当事者の歌劇団が行う聴取結果を前提に「第三者委員会」を設置するという、本来の「第三者委員会」の性格からは考えにくい話まで出ている。

いずれにしても、一流の大手法律事務所が関与して行った「不祥事対応」であるだけに、やり直しも、体制のリセットもできないことが、困難な現状を招いているように思える。

大企業にとって、大手法律事務所は、消費者にとっての「一昔前のデパート」のような存在だ。デパートは品揃えが豊富で、大抵のものは揃っているし、品質面でも問題はない。それと同様に、各法律分野についての専門家も含め有能な弁護士をそろえ、文献・資料も豊富に保有している大手法律事務所に依頼すれば、ほとんどの問題に適切に対応してくれると信頼されている。大手法律事務所に頼んでおけば安心というのが一般的な感覚だ。

しかし、「不祥事対応」については、それと同じように考えてよいのだろうか。リスクのレベルが高い非定型的事案では、関連する社会的要請を全体的にとらえるコンプライアンス的視点が必要となる。そこでは、法律の解釈・適用とは異質の判断と対応が求められる。一方で、企業を蝕む「第三者委員会ビジネス」でも述べた弁護士費用・報酬の問題は、「不祥事調査」全般に当てはまる。

事案の性格・内容、その背景を見極め、「危機対応」のための最適な体制を選択していくことが必要であろう。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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