しかし、ジャニー喜多川氏との関係性、事務所内での立場如何では、性加害の事実を認識していてそれを止めなかったという「不作為」でも幇助犯等の共犯が成立する可能性があることは否定できない。「共犯にはならない」というのは法律的に誤った回答だ。
この点については、会見直後に元検事の若狭勝弁護士がYouTube動画(【ジャニーズ】顧問弁護士が幹部の刑事責任を否定)で誤りを指摘しており、質問者の佐藤氏は、木目田弁護士に対する懲戒請求を所属弁護士会に行ったと報じられている(「ジャニーズ事務所木目田弁護士に懲戒請求 泥沼化する騒動の行方」ガジェット通信等)(なお、佐藤氏は懲戒請求については、自らのYouTubeでの発言では「懲戒請求が行われた」と述べているだけで、自分自身が懲戒請求を行ったことは公表していない。)。
このような質問が行われる背景には、そもそもジャニー喜多川氏の性加害問題について一定の責任があることが否定できない東山氏を新社長とすることに無理があったのではないか、との疑問がある。
そのようなジャニーズ事務所側の方針をサポートする立場で会見に同席した木目田弁護士が東山氏に有利な方向で発言し、その内容が法律的に誤っていると指摘されていることは、対応上の問題だと言える。
もう一つの重要な問題は、ジャニー喜多川氏の未成年者への性加害が長年にわたって継続していたことが、ジャニーズ事務所の内部でどのように認識されていたのか、問題の隠蔽に、同事務所関係者はどのように関わっていたのか、という点だった。
それは、まさに今回の「不祥事の核心」であり、その点について、十分な事実解明が行われることが、「不祥事対応」の大前提になるはずである。
ところが、今回、「第三者委員会」として設置された林真琴元検事総長を座長とする「再発防止特別チーム」では、膨大な数の被害者のうち僅か20名の聴取を行っただけで、被害の全貌は明らかにされていない。しかも、性加害の事実をジャニーズ事務所内部で誰がどのように認識し、どのように対応してきたかについては殆ど調査を行っていない。
調査報告書でも、ジャニー氏の姉の故メリー喜多川氏による隠ぺいが行われたこと以外には殆ど書かれていない。性加害が長期間表面化しなかった原因として「メディアの沈黙」を指摘しているが、その「沈黙」に、ジャニーズ事務所側がどのように関わっていたのか、という点について事実解明はほとんど行われていない。
10月2日の記者会見での木目田弁護士の発言の第2の問題は、この点に関わるものだった。
再発防止特別チームの調査報告書では不十分であり、もう一度第三者委員会なりを立ち上げてきちんと徹底的に調査をして膿を出してこそ再出発ができるんじゃないか。
と質問されたのに対して、
事実関係については、林元検事総長、飛鳥井先生、斉藤先生という専門家が完全にジャニーズ事務所からは独立した形で事実調査を行った結果について公表している。すでに徹底した事実調査が行われている。それに基づいてジャニーズ事務所、スマイルアップは今後の再出発を果たそうとしている。
と答えた。
しかし、再発防止特別チームの調査報告書公表の際の記者会見で、林座長は、
すでに被害を訴えている方について、ヒアリングを前提に再発防止策を提言した。全てを調査するのは困難で、全体像を確定しないと再発防止策が立てられないというわけではない。
全体像は今後明らかになることを期待している。
と述べており、事実調査は、再発防止策の提言に必要な範囲で行ったに過ぎないこと、被害事実の確認も一部にとどまっていることを、林座長自身が認めている。
「徹底した事実調査が行われている」という木目田弁護士の説明は再発防止特別チームの説明とも食い違っている。
不祥事対応は、まず、その不祥事に関する事実解明から始まるのであり、その点についての不適切な説明は、危機対応に関わる弁護士の対応として問題だと言わざるを得ない。
このような木目田弁護士の会見での発言の問題は、記者会見に当たっての基本方針にも関係している。
10月2日の会見は、ジャニーズ事務所が、「ジャニーズ」という名称を完全に廃止して被害者への補償を行って廃業すること、新会社を設立して再出発することを説明するための会見にしようという目論見だったようだが、創業者で経営者だったジャニー喜多川氏の性加害の重大性からすれば、ジャニーズ事務所には重大な説明責任がある。
記者会見では、正確に、誠実に説明を尽くし、会見参加者の、そして世の中の理解・納得が得られるまで徹底して質問に答えることが必要だった。そのために、記者会見の時間を十分に確保する必要があった。
ところが、実際には、時間を冒頭説明も含めて2時間(質問時間は1時間20分)と制限し、質問は「一社一問」「再質問はなし」ということを、予めジャニーズ事務所の側で「ルール化」した。
その中で、ジャニー喜多川氏の性加害問題への東山社長の関与、法的責任、或いは、今回の「不祥事」について事実解明が十分に行われたと言えるのかなどの「厳しい質問」も、危機管理のエキスパートであれば想定していたはずだ。
問題になった「NG記者リスト」にNGと記載されていたのは、まさに、このような「厳しい質問」をしてくることが予想される記者達であった。後述する10月10日のリリースに書かれていたように、記者会見で「NG記者も当てる」という方針で臨んでいたのであれば、このような質問を想定し、十分に検討して正しい回答を用意しておくべきだった。
宝塚の調査報告書の問題点大江橋法律事務所の弁護士チームによる調査報告書は、そもそも「内部調査に近いもの」なのか、「外部の独立した弁護士による調査チームによる調査」なのか、という点が判然としないが、調査報告書の内容としても、いじめ・ハラスメントを否定するだけでなく、劇団側の見解・意向に相当配慮し、遺族側の指摘に対する反論に終始し、問題の原因を、劇団員の死亡直前のスケジュールの過密等の特殊な要因中心にとらえようとする姿勢がうかがわれる。
調査報告書「第4 本件事案が発生した原因についての考察」の冒頭には、以下のような記述がある。
本件調査は、本件事案が発生した事実関係及び原因を調査することを目的とするが、 故人のプライベートの問題や従前の健康状態等、 業務以外の心理的負荷や個体側の脆弱性に関する調査には限界があったことから、 故人の精神障害の発症の有無、 発症の時期や、 本件事案の原因を特定することは困難である。
「業務以外」「個体側の脆弱性」などという表現で、自殺の原因が、劇団側の問題以外にあった可能性を示唆し、「精神障害の発症の有無、 発症の時期」にまで言及し、「原因特定は困難」などと述べている。
劇団側以外に自殺の原因があると劇団側が認識し、それを調査担当弁護士側がそのまま引き継いで調査に当たったことを示しているようにも思える。亡くなった劇団員「個体」と表現するのも無神経だ。
そのような考えで調査を行ったとすれば、「独立性を持つ外部弁護士調査」の姿勢自体に重大な疑問があると言わざるを得ない。
根本的な問題は、この調査は、いったい何を目的として行われたのか、という点だ。
調査報告書の冒頭で、「本件調査の目的」は、「劇団員の死亡が確認された出来事」(本件事案)に関する事実関係及び原因を調査すること、とされている。しかし、本来、劇団側が調査チームを設置する目的は、自殺の原因につながる「劇団側の問題」があった可能性があることを認識し、問題の有無を明らかにし、その問題による同種の問題の再発防止のために、劇団側について徹底した調査を行うことなのではないのか。
どのような目的で、どのような基本姿勢で調査を行ったのかについて、調査担当弁護士は公の場で質問を受け、明確に答えるべきであった。
記者会見後のジャニーズ事務所側の対応ジャニーズ事務所は、10月2日の会見での「不祥事対応の失敗」のために、その後は、会見の後始末に追われることになった。
その後、ジャニーズ事務所が公式に行ったのは以下の対応だった。
10月5日、前日夜のNHKニュースで「NG記者リスト」について報じられたことを受け、「弊社記者会見に関する一部報道について」と題するリリースを出し、「NG記者リスト」の作成は、FTIコンサルティングが勝手に行ったことで、ジャニーズ事務所は関わっていないと発表した。 10月7日、「弊社に関する一部インターネット記事について」と題するリリースで、「スクープ!運営スタッフが激白『ジュリー氏も会場にいた』『リストはジャニーズの要望に基づいて作成』」などと断定的な見出しを付した記事に反論した。 10月9日、「故ジャニー喜多川による性加害に関する一部報道と弊社からのお願いについて」と題するリリースで、弊社は現在、被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数あるという情報にも接しており、これから被害者救済のために使用しようと考えている資金が、そうでない人たちに渡りかねないと非常に苦慮しております。そのような事態を招かないためにも、報道機関の皆様におかれましては、告発される方々のご主張内容についても十分な検証をして報道をして頂きますようお願い申し上げます。などと述べ、報道機関に対して、告発者の主張内容についても十分な検証するよう要請した。 10月10日、「NGリストの外部流出事案に関する事実調査について」と題するリリースで、「ジャニーズ事務所も西村あさひも、写真あり指名リストの作成・共有などには一切関与していない」旨の山田CCOによる関係者のヒアリング結果及び関係資料の確認結果を公表した。ジャニーズ事務所は、公表したとおり、10月17日に、社名をSMILE-UP.に変更したが、それ以外に行ったことは、上記のとおり、失敗会見の後始末と「言い訳」「開き直り」のリリースだった。
プレスリリースについての助言・指導は、危機管理業務における主要なものであり、その内容に、木目田弁護士らが関わっていないことは考えにくい。
特に、10月10日夜に急遽発表した、5000字にも上るリリースは、「NG記者リスト」の問題に関して、木目田弁護士側の言い分を述べるために行ったと思える内容であった。
会見の2日前の打合せの場で、「指名候補記者リスト」及び「指名NG記者リスト」との記載があり、それぞれの下に記者の所属及び氏名が記載されているリストが一部の参加者に対してのみ席上配布されたとし、
配布が一部参加者にとどまったのは、当該資料の枚数が足りず、参加者全員に行き渡らなかったためである。そのため、例えば、山田CCO及び西村あさひの弁護士には個別に配布されず、2~3名で一枚という割り当てだったため、山田CCO及び西村あさひの弁護士は当該資料を見ていない。
とする一方で、
木目田弁護士を含め、他の会議参加者からも、「指名NG記者リスト」に記載されている記者等であっても指名して質問に答えるべきである旨の同趣旨の指摘が相次いだ。このように、写真なし記者リストで「NG」とされている記者についても時間の許す範囲できちんと指名して質問に対応しなければならないという点について、その場で異論は出ず、当該方針が了承された。
などと述べている。
「NG記者リスト」に記載されている記者等であっても指名して質問に答える方針であったのに、FTI側が、その方針に反して、「写真入りの指名NG記者リスト」を会見場に持ち込み、さらに、そのリストが流出したことが問題だったと言いたいようだが資料の枚数が足りなかったのであれば、追加で印刷すれば済むことだ。
「2~3名で一枚という割り当て」であったとしても、危機管理を担い、会見で登壇する予定の請求者には当然配布されるはずだ。「当該資料を見ていない」と強弁しているのは、明らかに不合理だ。
また、「写真入り」のリストの作成・会場への持込みを認識していなかったとしても、「写真なし」の「指名NG記者リスト」が作成されていたことを、会見の2日前に認識していた以上、それがどのように使われるのか、会見に登壇する弁護士として把握しておくのは当然だ。
そして、新たな問題の引き金になった可能性があるのが「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数ある」などと述べた10月9日のリリースだった。
その4日後の10月13日、ジャニー喜多川氏による性被害を受けたと訴える「当事者の会」に所属していた40代の男性が亡くなった。遺書のようなメモがあり、自殺とみられている。
男性は一部メディアで性被害を告発した後、「うそはすぐバレる」「金が欲しいんだろう」「虚言癖がある」「デビューできなかったくせに」といった誹謗中傷がSNSに多数投稿されたという。
亡くなった男性への誹謗中傷について
彼は事務所に対して誹謗中傷への対策も求めていましたが、事務所幹部は会見で『誹謗中傷をやめてください』と呼びかけるのみで、具体的な措置を講じていませんでした。
彼の心労は、元々抱えてきた性被害のトラウマの再燃とも相まって、一層深刻なものになっていました。
とされている。