この問題を指摘しているのは、日本維新の会と幸福実現党だけだ。公明党はこれに反発し、自民党は沈黙している。

総裁候補がみんな沈黙しているのは、この問題を知らないからではない。老人票の恐さをよく知っているからだ。もしある候補が維新のような公約を出したら、選挙区から「医療費3割負担で選挙は戦えない」という批判が続出し、決選投票にも残れないだろう。

日本が緊縮財政だというのは、見当違いもはなはだしい。社会保障給付は、戦後一度も減ったことがない。前回の総裁選では、河野太郎氏が最低保障年金を提案したが、他の全候補から袋だたきにあい、引っ込めてしまった。社会保障は、誰も手をふれられない日本最大の既得権なのだ。

社会保障が抱える巨額の「簿外債務」と「支援金」

見て見ないふりをしていれば、象は部屋から出て行ってくれるだろうか。残念ながらそうは行かない。次の図のように医療・介護のコストは今後15年で30兆円も増え、その6割が老人医療費(65歳以上)である。社会保障給付は全体で190兆円になる。

厚労省の資料

このコストの一部は社会保険料でまかなうが、今年度の場合、140兆円の社会保障給付のうち保険料は80兆円。残りの赤字は一般会計で穴埋めする。この赤字は特別会計の簿外債務である。

これを「将来世代へのツケ回し」と呼ぶのは正しくない。それはいま現実に起こっている現役世代から高齢者への逆分配なのだ。その規模は毎年60兆円で、国と地方の裁量的経費の半分を超える。

さらに後期高齢者への給付費15.3兆円の赤字のうち6.3兆円をサラリーマンの健康保険料からの(保険料でも税でもない)支援金で埋めている。サラリーマンの払う健康保険料の半分は、自分の親でもない後期高齢者に仕送りされているのだ。